NHKの漁業の再建を目指す岩手県宮古市重茂の漁協の番組を母と見る。泣けて仕方ない。日本一のわかめ養殖の湾も船は800艘流され、50人の住民も流され、住宅は全壊。そのなかで伊藤隆一漁業組合長は立ち上がる。当てにならない政府を当てにせず、中古の船を買い、漁業の共同化を目指す。みんなでわかめ取り、売り上げは公平に参加者で分配。定置網の売り上げは復興に。
私も三陸の漁業を取材したことがあるが、あわび取り、ウニ取り、いずれも健全な競争が生きていた。重茂でもキャリア、腕に差がある漁師は何となく納得できない。悪平等ではないかと考える人もいる。しかし伊藤さんは災害の後、復興するにはひとり一艘の船を得られるまでは平等分配しかない、前へ行くしかない、とみんなをまとめて引っ張る。みんなもナットク。相互扶助的原始共産制があたたかい。『もう被災者じゃない、復興者とよんでくれ』という誇りに満ちた響き。
いろいろ試行錯誤のすえ、谷根千でも年齢、キャリア、能力は無関係に売り上げから経費を除いた残りの千円札をトランプよろしく公平に配ったことを思い出す。それでいいんだ! 日本にもまだ惚れられるオトコがいたんだなあ。
‘くまのかたこと’ カテゴリーのアーカイブ
震災日録 9月6日 重茂の原始共産制
2011年9月9日 金曜日震災日録 9月5日 地すべりで出来た道
2011年9月9日 金曜日朝、アーティストのやなぎみわさん、蔵へ。大正のダダイズムなどについてよく調べられていてびっくり。24日に雑司ヶ谷明日館で林芙美子『放浪記』の改造社版を朗読したいので、それを発掘した森さんに挨拶をしてお話もうかがいたいということであった。チャンと筋を通す。大事なことだ。最近、谷根千を商標に使う店や医院もあるがあいさつに来た方はいない。動坂でやねせんうどんなども始まるそうだが当方とは関係ありません。
地質学者のイトウさんからの『誤解を生んではいけないから』という捕捉。勝手にブログに載せて失礼しました。
「自然現象は我々にとって味方にもなれば破壊者にもなります。地震を起こす断層や住居を押しつぶす地辷りというと困ったものだと考えておられる方も多いでしょうが、変動帯に位置する日本列島では実はそれらのお陰で生活が成り立っていることにも注目しておく必要があるのです。野を越え山を越える直線的な街道は過去の断層運動、つまり地震の結果という例が多いですし、急峻な山地でも生活(住居や畑)ができるのは地辷りによる緩斜面形成があってこそということがしばしばです。ですから、私達は地震や地辷りをただ憎むのではなく、地球、とりわけ変動帯である日本列島の地質現象をよく調べ、その法則を理解して、上手につきあうことが大切だと思っています。この前ご紹介した街道と関連する断層や構造線についてはよく調べられており、不安に陥る必要はないでしょう。ただ、今回の大震災でいやというほど思い知らされたように、自然は計り知れないほど奥深いので、予断をもたず謙虚に研究しなければと肝に銘じています。自然を侮ると、味方はたちどころに私達を押しつぶす破壊者に転じるからです」
震災日録 9月4日 核汚染物質を県外移転?
2011年9月9日 金曜日台風12号の爪痕深し。神様、もうそろそろ勘弁してくださいよ。和歌山の息子に電話。無事、でもスゴイ雨だった。
細野豪志氏が「福島の痛みを日本全体で分かち合う」として核汚染物質を福島以外に処分場を設けると発言したことについて冗談じゃないという声しきり。陸前高田の被災木を京都でお焚き上げしなかったというのは行き過ぎだと思うが、これは地域エゴではない。核廃棄物は拡散させてはいけない。普天間基地の問題とは根本的に違うのだ。
この日、やねせん寄席。落語は1人の素がたり、究極のエコだというのにはナットク。
であれば出ばやしも生でやってほしいものだ。私の友だちの蓄音機屋さんは手回し蓄音機こそ究極のエコ、買ってくれたひとにエコポイントを出してほしいといっていた。
帰ってサトコと白山上商店街の盆踊りを観に行く。盆踊りとは亡き人を慰めるための踊りなのだから、東京音頭も炭坑節もこんなに明るくリズミカルでマイク音なのはいただけない。生きているひとが楽しむためのものになってしまっている。今年くらいは津波に流された人々をしのんで静かにゆっくりとやってほしかった。しかも西条八十・中山晋平コン
ビによる東京音頭は、戦争へ向う時代の目くらましになった。ええじゃないか、のようにみんな踊り狂って、何も考えなかった象徴。今と同じだ。
震災日録 9月3日 野田侮るべからず
2011年9月9日 金曜日朝、大相撲場所前の総見に行った。大勢の幕内力士が八百長問題で引退したわけだけど、後を埋める力士は育っているのか?
その足で野田市での講演会へ。野田はキッコウマン醤油が有名で茂木一族のすばらしい邸宅群などがそのまま残されている。中には市に寄贈され公開されているものもある。興風会館という昭和4年の登録文化財が会場。千秋会館など洋風建築にも見るべきものは多い。駅前は閑散としているのに不思議な町。またゆっくり来たい。
急いで帰って、映像ドキュメントの研究会に参加。黒沢ビキビ水爆実験のとき、日本の政府は放射能の影響などについてちゃんとした調査をし、データも出したというのに、今回はなんという不誠実。いっぽうビキニの時はこどもたちを放射能から守る活動が行われたとおもう。幼児だったわたしですら「雨の日はおもてに出ちゃ行けないよ」「牛乳は放射能に汚染されているかも知れないから飲んじゃだめ」と母親にいわれたのを覚えている。原爆と水爆実験と原発事故がなかなか結びついていない。
前の大学出の同僚だった前田哲男さんが来てくれた。マーシャル諸島の米核実験の被害のルポ「棄民の群島」を著し、今の仲間荒川俊児さんは、「反核太平洋・パシフィカ」という月報をだしながら、日本の原発の核廃棄物をマリアナ海溝に投棄することを告発していた。
震災日録 9月2日 朝日はどうなってんの?
2011年9月2日 金曜日朝から頭が瞬間湯沸かし器になりました。
朝日新聞が、あの、福島県放射線リスク管理アドバイザー山下俊一氏に『朝日がん征圧大賞』を贈るそうです!
http://www.asahi.com/national/update/0831/TKY201108310495.html
トンデモ佐藤雄平知事がトンデモなアドバイザーを選んで、元長崎大教授なんていう名前に惑わされちゃいけない、山下氏は当初『100ミリシーベルトまでは妊婦・子どもも大丈夫』といっていた人です。いまは長崎大を休職して福島医大副学長になっています。もちろん福島県民は前から彼の解任署名を5万以上集めていますが、受賞にかんかん、抗議行動をはじめました。
【怒!】山下俊一への「朝日がん大賞」を撤回させよう!/杉原浩司(福島原発事故緊急会議)
福島に居座り、日々被ばくによるがんの危険を押し付けている張本人である山下俊一に、「朝日がん大賞」(副賞100万円)が授与されることが決まったそうです。まさにアンビリーバブル!です。まるで、朝日「がんにさせる」大賞です。「被曝させる医療に貢献」したことを称え、権威づける、しかもこのタイミングで。9月11、12日には、山下が仕切る「放射線と健康リスク」に関する「国際専門家会議」が福島で開催されます。
授賞式は9月2日、いままさに最中だが、今からでも抗議はできる。
朝日新聞(選考委員には上田俊英科学医療エディター(部長)も。こんなことで朝日の原発関係の記事は信用できるのか?)
日本対ガン協会(事務局は有楽町の朝日マリオン。理事長は武富士リース問題で朝日の社長を引責辞任した箱島信一氏、こういうのって天下りっていうの? 会長は垣添忠生氏、年上の妻の看取り記はよかったけどな)
このところ、朝日は有能な記者はつぎつぎやめちゃうし、二世記者が石巻のにせ医者を人の欄で取り上げるわ、どうなっているんだろう。仙台市役所が配水所を壊す時も、朝日は『河北が前に取り上げたから』と動かなかった、と市民運動の人はいっていました。朝日は反体制セレブ化しているのか、もともとエリートの高給とり、被災地の痛みや脱原発をいっても本気かよ、と思うことが多いです。周りでは朝日から東京にかえるひと多し。今回の受賞が読者の信頼を失い、毎日における西山記者事件になって、部数をがた落ちさせるかも知れない。心ある社員、がんばってくれ!
震災日録 9月1日
2011年9月1日 木曜日関東大震災の日。吉村昭『関東大震災』、鈴木淳『関東大震災』お薦めします。
地質学者イトウさんより、またまたこわいご指摘。
◎日本の高速道路やその基となる街道の少なくない部分は大断層と関連している。まあそうでなければ野を越え山を越える街道はできませんよね。
・東北縦貫、奥州街道=盛岡-白河構造線。日本海が拡大した際(1500万年前)、その東の縁。
・北陸自動車道のうち賤ヶ岳~敦賀=柳ヶ瀬断層(活断層、100年前に地震)。これ、北国街道の一部。紫式部が通り、戦国の武将が大軍を率いて走 り抜けた道。
・これも中部地方の武将が太平洋岸に進出する際に駆け抜けた秋葉街道=赤石構造線・光明断層
・山陽道の一部:山崎断層と一致
・徳島道=完全に中央構造線の真上。恐ろしいです。
おそろしい時代に生きてしまいました。国家とか経済とかの視点でなく、いつも「普通の人の暮らし」を物差しに考えればどうにか間違えないで生きていけそうです。福島の小学生の「私は結婚して子供を生めるのでしょうか?」という疑問に母は絶句したと言います。うちの娘は「これで20年くらい寿命が縮まったかも知れないけど覚悟してる」という。刃は高度成長に浮かれて何もしてこなかった私たちおとなに突きつけられています。
震災日録 8月31日 除染より避難が先
2011年9月1日 木曜日ドイツのテレビ局はこんな番組も作っています。NHKは3月27日の反原発デモも報道せず、朝のBSニュースでフランスの報道として流していました。また同じことで日本人フリージャーナリストが危険を冒して福島原発に潜入したルポが西ドイツのテレビ局で放映され、それをNHKが紹介する、そんなバカな。ぜひご覧ください。
http://www.youtube.com/watch?v=YNZ3bFUGyq4&feature=share
風評被害とは「根も葉もない噂」であって「根も葉もひどく汚染されている場合」つかうべきではないと、通訳の方はいっています。
外国人ジャーナリストたちは『なぜ誰も刑事被告人にならないのか?』と不思議がっているそうです。私もそう思う。
28日のNHKの中ではがんばっておられる七澤ディレクターの番組、娘と見て違和感をもちました。除染すれば放射線値は半分になる、というのですが、半分になっても赤ちゃんが住んでいい値とは思えません。除染が先、ではなく疎開(避難)が先ではないでしょうか。
石巻から魚が届いた。漁業も魚一尾ずつ放射線量を計測しているわけではない。魚はお米のようにじっとしていないしなあ。細胞分裂の終わっている(?)母と私でせっせと食べる。サンマの刺身、ツブ貝にホタテ貝、サンマの塩焼き、ああ、サンマにがいかしょっぱいか。
震災日録 8月30日 ドイツの番組
2011年9月1日 木曜日日本の放送局は何をしているのか。ドイツの放送局の報道が回って来た。
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ドイツTV記者の細野大臣への質問。福島原発から80km先の福島市水田から35,000ベクレル高濃度放射性物質が検出された件。大臣のズレた回答に注目。
通訳された方によれば、細野氏は5000ベクレル以上の土地には作付けを許していないから大丈夫みたいなことを言って、あとで30キロ圏内だったと訂正。つまり80キロだと公式には計測しなくても米でも野菜でも作れる。
「そのような高濃度に汚染された土で米を作っている農家の思いは気も狂わんばかりだと思います。秋になってから黄金色に実った米を汚染されているから売るな食べるなということはもっと残酷だと思います。放射能は目に見ないし、臭いも色もないので、不正に市場に出回ることを完全に防げるとでも思っているのでしょうか?」
と通訳された方からのメールにありました。
本当だと思います。悔しいながらわが第二の故郷丸森も80キロ圏です。しかし原発からの距離はあまり意味がなく、ホットスポットは栃木にも埼玉にも茨城にも東京にもある。4月時点でわたしは「フクシマ人と自覚してこの事態を引受ける必要がある」、と東京新聞で述べました。うちの方が低い、うちはまだ大丈夫などと一喜一憂している場合ではないということです。
1、ホットスポットのこどもたちに地場の産物を食べるのはやめてもらわなくては。(地産地消の旗を下ろすのはくやしいが)。
2、細胞分裂の盛んでなくなった私たちは覚悟して食べても良い。
3、早急に東京電力に徹底的に農家の補償をさせる。
震災日録 8月29日 『悪人』読みました
2011年9月1日 木曜日津波の怖い夢ばかり見る。
吉田修一『悪人』という小説を読む。たまたま図書館の棚にあった。泣きはしなかったがずっと心が痛かった。九州の短大を出て博多で保健の外交員をしている若い女性が殺される。彼女はまじめな理髪店の両親をもつのに遊びたくて博多で寮暮らし、出会い系サイトで複数の男と関係していた。一人一人が警察に呼ばれ、語った話で進行して行くが、なんて悲しい暮らしばかりなんだろう。
かつてみんなが農村や漁村で暮らしていたころは、貧しさ塩漬けではあったが、それなりに祭りもあり、育てるよろこびや獲るよろこびもあり、共同体の遊びもあったし、みんな同じような学歴と職業なのでコンプレックスもなかった。いまや1人で都会に抛りだされ、正規の職業につくこともすくない。秋葉原事件の加藤被告や仮出所後に子どもをさして捕まった氏家被告のことがしきりと憶い出される。
しかしちょっとステロタイプなんじゃないか? ネタバレになるかも知れないが、この本は何年か前のベストセラーだし、最初に犯人は暗示され、映画化されてもいるからあえて述べる。小説で一番の悪役は、金回りもよくモテ系で女の子を引っ掛けては捨てている「由布院の高級旅館の息子の大学生」である。よく知っているから身びいきでいうのではないが、由布院の旅館の息子さんでこんなちゃらい、身勝手なのは見たことがない。旅館のしごとは大変だし、なかなか嫁に来て女将になってくれる人は少ない。老舗であれば重圧もあり、跡を継ぐかも悩んでいる、というのがふつう。悪役だが同情を引くのは「母親に捨てられ、祖父母に育てられた、口べたでもてない土木作業員」だろう。しかしこうした描き方は土木作業員への偏見をますのではないか。全国でたくさんの土木作業員が楽しそうに働いていると思うのだが。わが息子も肉体労働なので、外で汗を流す仕事への偏見がしめされるとつい反応してしまう。スーツ着ての事務仕事よりきついが手応えがあると思う。主人公の労働が一切描かれず、性と遊興の部分だけ拡大されているような。だから救いのない結末になるのだ。
とはいえ昨日千駄木の中国料理店では、まるで小説に出てくる女の子みたいのが大声で恋愛自慢を長々やっていたし、ウェートレスの中国人女性は何かに怒っているように無愛想だった。別の店の女の子はものすごく悲しそう。みんな何考えているんだろうな。
震災日録 8月28日 地質と文学
2011年9月1日 木曜日伊藤谷生さんより。
「地質学において巡検(excursion:地質学的に重要な地域や露頭を見学し、参加者で議論する)いうものがあり、その案内書の一つを今夏も書いたのですが、その際、『即興詩人のイタリア旅行』の地質版を作ろうと思ったものです。旅と地質と文学は大きな関係があります。不勉強な私ですが、いくつか挙げてみましょう。
泉鏡花『高野聖』:あのルートは跡津川断層という活断層にそった山道です。
なんとかという妖艶な美女が住む天生峠には立派な断層露頭があります。今も昔も蛭が多くて大変ですが。
田宮虎彦『足摺岬』:ここは巨大なかこう岩の貫入場所です。いい教材です。
四国や紀伊半島のお札巡りは中央構造線沿いが多いですね。
北原白秋の『城ヶ島の雨』:彼が桐の花事件で三崎に逃れてきた時、まだ関東大地震の前でしたので、“通り矢”は海峡でした。大震災で三浦半島が相当隆起してしまったのですが、隆起前だったからあの詩が書けたのか も知れません。
大岡昇平『武蔵野夫人』:恋ヶ窪を含めてハケは国分寺崖線という多摩川の扇状地の南西縁からの湧水。
金石範『火山島』:これはまさに地質そのものです。
太宰治の『津軽』にそって歩けば津軽の地質がよくわかりますし、スタインベックの『怒りの葡萄』にあるルート66に沿って車を 走らせれば、北米の地質の概要がつかめます」
私一人で独占するのはもったいないので、紹介させていただきました。
夜は光源寺で東北支援復興盆踊り。町会もテントをはっているが、ここが児童遊園でもあり、子育て中のお母さんたちにも場を提供しているためか、すっかり子連れ親子のたまり場になっている。若い世代に支持されているお寺は安泰だと思う。