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寺町、谷中の建物や路地を残してください。

小池百合子都知事様  

台東区の谷中は上野寛永寺から続く100近い寺院を要する東京最大の寺町で、彰義隊の上野戦争でこそ兵火にかかりましたが、その後、関東大震災でも、米軍による空襲にも、比較的、被害が少なく、大正時代以前の100年を超える建物が多く残っています。
私たちは1984年、ここで地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊、地域の「記憶を記録に変える」を合言葉に、小所低所にこだわり、地域の歴史を紡いで参りました。数千人の聞き書きを行い、2009年までに94号を出して終刊、その後は町の様々な問題に関わりながら、集めた資料のデジタルアーカイブ化に努めてきました。国立国会図書館、東京都立中央図書館、各区の図書館、ハーバード大学、エール大学、ミシガン大学、オクスフォード大学、東京大学などにバックナンバーが収められています。 


この土地はいつしか「谷根千」と呼ばれ、東京のなかで古い建物、職人、コミュニティ、生活様式、墓地や路地の緑が残る稀有な町として訪れる人が多くなり、現在、年間120万の訪問者を迎えています。全世界にこの町を愛し、何度も訪れる人々がいます。オーバーツーリズム(観光客が来すぎ)の問題もありますが、哲学者エマヌエル・カントが「永久平和のために」で述べるように、諸国民が訪問しあい、お互いを理解し、友情を育むことは平和の礎となります。
地域には国指定文化財、登録有形文化財、都や区の指定文化財も多くあります。三万坪の緑地である都営谷中霊園には多くの歴史的人物が眠り、幸田露伴や岡倉天心、横山大観、朝倉文夫、平櫛田中から周恩来、サトウハチロー、尾崎一雄、宇野浩二、川端康成が住んだストーリーを含み、一つの文化的環境をなしています。これが1980年代後半のバブル経済以降、だんだんと失われていき、豆腐屋や和菓子屋、銭湯などの数も激減し、地域の環境は危機に瀕していると言わざるを得ません。それでも次の若い世代は、この町で果敢に古い建物のリノベーションや起業を進めています。


この度、都の戦前からの都市計画道路が廃止されることになりそうです。補助92号=朝倉彫塑館前通り、178号=三崎坂、柳通り、118号=日暮里御殿坂で範囲は文京区、荒川区にも広がっています。しかし高さ制限などを義務付ける道路計画があるからこそ、古い町並みが残ったのは、埼玉県川越市と同じ経緯です。ただ計画を外すだけでは、6、7階の高層化を目論む乱開発が行われるでしょう。
また都は、直下型地震に備え、その後は木密解消、不燃化建替促進の地区計画をかけるようにとの方針ですが、これも木造家屋を6、7階のコンクリート造に建て替えるなど、同じ方向性にならざるを得ません。
一方、平成15年と27年に東京都と台東区、文京区、荒川区で策定された「谷中日暮里地区の都市計画道路の見直しの方針」では、この地区を「江戸以来の道筋、寺社、町屋や塀など多くの伝統的建造物が残り、・・・地域住民や来街者に歴史的な風情と潤いを与えており、これらを生かした「まちづくり」への取り組み、検討が必要」としています。その方針はどこへいったのでしょうか。?
今まで、住民、町会、商店街、仏教会、そして谷中を愛する人々が守ってきたかけがえのない文化的価値を存続するには、現在区が出している建て替え誘導型の「地区計画」素案では足りません。心ある人々は、谷中を東京で初の文化庁の伝建(伝統的建造物群保存地区)にしようとか、国土交通省の「歴史的まちづくり」街区の制度を使えないかなど検討しています。
行政側は8月末の説明会を終えると、これで説明は十分と、計画を進めそうな勢いですが、住民の多くには、伝建も、歴まちも、地区計画も、都市計画道路のことも、十分に理解されていないというのが現状です。

私たちは1984年から35年の谷中での活動を踏まえ、次のことを要望します。
  1. 都市計画廃止、地区計画設定は一時凍結し、地元の人々が考え、論議し、納得のいく良い方向を出せるまで行政は時間をかけて計画を進めること。
  2. その際、地元で長年活動している諸団体、個人の意見をよく聞くこと。
  3. 昭和32年に東京都の管理が不十分なために放火心中でいて再建、復元すること。
  4. 防災と文化財や歴史の保存活用が両立する道を考えてください。谷中の稀有な町並みを守るために、使えるあらゆる制度を検討すること。

かつて、鈴木俊一知事は谷中を視察され、私たちの活動を激励するとともに、「マイタウン東京にふさわしい郷土づくり」と評価してお手紙までくださいました。しかし2年前にはフランスの景観学者、オーギュスタン・ベルク氏(フランス社会科学高等研究員教授)が高台から富士山が見えなくなった谷中の現状をまさに「殺風景」、風景を殺すものと憂えておられました。
心広い、優しい人の多く住む谷中、木造密集でもソフトの知恵で火事のほとんどない谷中、暮らしやすく、暮らすのが楽しい谷中を、自治体の政策が破壊することがないよう、衷心から願ってやみません。

谷根千工房
森まゆみ
作家・日本ナショナルトラスト理事・元文化庁文化審議会委員・「谷中スケッチブック」著者
山崎範子
「地域人」編集者、「谷中のこ屋根会」代表
仰木ひろみ
ピアノ教師・東京都指定名勝・安田楠雄邸庭園マネージャー。ジョルダン・サンド 谷根千ワシントン支局長、元谷根千英語版編集長、ジョージタウン大学教授

2019年9月30日   谷根千工房(森まゆみ)

谷根千工房 http://www.yanesen.net   E-mail: info@yanesen.com
〒113-0022 東京都文京区千駄木5-17-3 谷根千<記憶の蔵>内 
mobile 080-6670-0142(やまさき)
★常駐していません。

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