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era of dam is over ダムの時代は終わった

その昔、不忍池の地下駐車場に反対していたころ、私はたった30歳だった。
東京駅丸の内駅舎は市民運動がなかったなら、いまころ京都駅や名古屋駅のように高層巨大ビルになっていただろう。(現在ステーションギャラリーで行なわれている「東京駅の100年」という展覧会ではそのことに触れていない)
おなじころ、地下駐車場に反対しなかったら、あの地下には乗用車2000台、大型バス60台の駐車場ができていた。自然の池は地下にガスタンクを抱えることになった。
私たちは「不忍池を愛する会」をつくり、植生では「しのばず観察会」の小川潔さんを先頭に、地質、地下水脈、井戸、大気汚染、財政、景観、需要予測、渡り鳥、いろんなことを調べ、行政の計画を論破した。そのときいっしょに活動した市民たち、尾台さん、宮内さん、サイデンステッカーさんなどは空の向こうに旅立たれた。いまはあの世から不忍池を見守っているだろう。

不忍池と八ッ場ダム
そのとき、私たちは不忍池単体を守るだけではなく、そこに注ぐ水の道、地下水を調べることになった。東京都職員の村瀬誠さんたちのグループと協働し、お寺や個人所有の井戸の水質を調べに回った。「とおくの山村の自然を破壊して都会に水を運ぶより、足下に降る雨を活かそう」というのが私たちの合い言葉であった。その「遠くの水」というのが群馬県長野原町の八ッ場ダム計画のことだとは、うかつにもピンと来ていなかった。
八ッ場ダムの愚かしい計画をちゃんと知ったのは10年くらい前である。これは1947年のカスリーン台風で関東平野で1000人くらいの犠牲者が出たことから、1952年に立案された。利根川水系の上流、八ッ場に巨大ダムを造ろうという計画である。問題はかずかずある。
1、ここには国鉄吾妻線がとおり、草津へ向かう観光客や嬬恋村のレタスなど高原野菜を運ぶ幹線道路国道145号がある。そんなところにダムを造るためには付け替え国道や付け替え鉄道の工事に莫大な費用がかかる。
2、水没地域には川原湯温泉22軒が営業しており、また農家もたくさんいる。
3、吾妻渓谷は国の名勝に、川原湯岩脈は国の天然記念物に指定されている。
計画が実行に移されてからは地元民の反対が激しく、結局現地ずり上がり方式というやり方で川原湯温泉は高台に再建されることになった。しかし、最初の計画から63年、時のアセスメントに照らしてみれば、治水の面でも、利水の面でも、まったく不必要なことが明らかになっている。もちろん下流都県民でも意識の高い人々は反対し、住民訴訟を起こしたが、いまのところ一審二審とも敗訴、最高裁の判決を待っている。そして工事は遅れに遅れ、事業費はアフタケアも含めると軽く1兆を越しそうである。

八ッ場ダム本体着工
人質事件で耳目がそちらに集中している2015年1月22日、八ッ場ダムは発破作業を開始、着工された。
民主党の前原大臣がいらない公共事業の典型として「八ッ場中止」と言明したときから5年である。官僚は巻き返しを強め、「先輩の面子」のためにも、天下り先確保のためにも、この計画を遂行した。だからといってひるむわけにはいかない。八ッ場ダムは不要なだけではなく、危険なダムである。
1、当該地は地質が脆弱であるため、湛水後に地滑りがおき、盛土や切り土で作られた高台生活地域の安全も懸念される。
2、上流には牧場がおおく、20万人の人口を抱えるのと同じ有機物(糞尿)がダムにはいる。水質汚濁も心配され、その水を我らか流民はのむことになる。
3、水力発電所の発電量が大幅に減るため、東京電力への減電補償も莫大な金額になる。
4、工事に有害鉄鋼スラグが使われたと毎日新聞がスクープ
5、いま残っている住民との交渉が難航、場合によっては強制執行も。
本体工事は清水建設JVが受注したが、これも官製談合の疑惑がある。
しかしメディアはほとんどこの問題を取り上げない。この国のメディアとジャーナリストは瀕死である。「社会の木鐸」「権力の番人」という役割を忘れ果てたかのように、大メディアの幹部は首相と会食(おごり)したり、東電の会長と旅行したりしている。
私たちの都民税も八ッ場ダムには注がれる。厳しく見つめて行こう。
これまた不要なダムの典型、岐阜県徳山ダムを見に行った。日本最大の貯水量(6.6億m³)だが、開発水はまだ一滴も使われていない。そこで夫をインパール作戦で失いながら、ダムに消えるわが村をとり続けた増山たず子さんの言葉に出会った。
「国はやるといったらかならずやる。ダムも戦争も」
体験に根ざした強い言葉だ。集団的自衛権、秘密保護法、原発輸出、再稼働、私たちの平和な生活の外堀はだんだん埋められて行く。八ッ場を見ても新国立競技場を見ても、国家は民衆の訴えに耳を貸さずに民衆の税金で粛々と愚行を続ける。しかし暗くなってばかりはいられない。「ダムネーション」という映画を見た。アメリカは19世紀からのダム王国である。そこでどんどんダムを壊し、紅サケなど魚の遡上する権利を補償しようという流れになっている。
era of dam is over.
日本でもはじめて熊本の荒瀬ダムが壊された。ダムなんてたかが堰が大きくなったようなものなのだ。
人間が作ったものを人間が壊せないはずはない。アナクロな最期のダム八ッ場も、途中でやめてもいいし、作られたら撤去すればいい。時代の要請にしたがって。(森まゆみ)

■もっと詳しく知りたい方はこちらをどうぞ
八ッ場(やんば)あしたの会 >>
八ッ場あしたの会は八ッ場ダム本体工事の中止と水没予定地域の再生を目的としたNGOです。

ドキュメンタリー映画『ダムネーション』公式サイト >>
(DAMNATION) by パタゴニア

2015年2月   森まゆみ

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