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日々録   2005年4月
No.972  2005年4月30日(土)

 いよいよ一箱古本市当日。ここでは、古書ほうろうのレジから見た一日をお伝えします。実際に書いているのは5月3日の朝8時(その後働いたり遊んだりして書き終えたのは5日の午前3時)。参加された方々の日記が続々とネット上でアップされていく現実を前にして、お尻に火がつきました。

 9時少し過ぎ、自分の箱をカートでガラガラ引いて店にたどり着くと、すでに南陀楼綾繁さんが見えていて、南陀楼賞の賞品やその他こまごまとしたものを預かる。あと、これからオヨヨ書林に向かう南陀楼さんに、ギリギリまで出すかどうか迷って結局止めた「富士急50周年記念切符」を見せる。紙ではなく甲斐絹織でつくられたもので、デザインがなんと真鍋博。去年の東京ステーション・ギャラリーでの展示にもなかったので、自分の箱の目玉にと思っていたのですけどね。惜しくなっちゃいました。でも誰かには見てもらいたい、自慢したいというわけで南陀楼さんに。われながらかっこわるい(けどやめられない)。

 歩いて家まで戻り、9時半頃、今度は自転車に乗って再び店へ。僕は一日中店に張り付きなので必要ないのですが、新たに自転車部隊をお願いすることになった文句堂の加福さんにお貸しするため。店内ではスタッフのみの打ち合わせ。しばらく後、シャッターを少し開けて外を覗くと、もうかなりの数の店主さんたちが集まってます。これまでも、店でライブをやった時など、これに似た光景は目にしているのですが、みんながみんな大きな荷物を持っているところと、あとやっぱり目の色が違うようです。

 10時。お店を出す場所ごとに、順番に入場。専従スタッフによる点呼、参加費の徴収などの後、僕から全員に注意事項の伝達。といっても、顔が見えているのは半分ぐらいの人に過ぎず、こっちも緊張しているしで、しどろもどろ。10時半頃解散。ほうろう前の専従スタッフであるミカコを手伝い、17箱の置き場所の指示など。自分たちの箱(萬福亭古書部)も並べました。この頃より電話も頻繁に。スタッフ間の連絡もあるのですが、問合せも多数。新聞の記事で知った人にとっては「まずどこに行けば良いのか」というのがわかりにくかった模様。

 11時開店。外は見る見るうちにお客さんで溢れるも、対照的に店内は閑散としていて、落ち込みます。「お店のなかも見てください」という気を発するも効果なし。後から考えると、このときが比較的暇な唯一の時間帯だったのですが。
 たしかこの頃、取材してくださる東京新聞の吉岡逸夫さんも来店。ほうろうでは、昨夏のwww.yanesen.net/horo/info/1359/,『戦場の夏休み』上映会>でもおなじみの方。ところがここで、前日に別の記者の方の手で紙面に載った記事のことが吉岡さんに伝わっていないことが発覚。本日の吉岡さんの取材がボツになるかも、といった事態に陥る。その取材を電話で受けたのは僕ですからね、ショックです。当日吉岡さんが見えることは先方にきちんと伝えましたし、だからちゃんと双方が連絡を取り合っての前日の記事だと思っていたので。何よりも吉岡さんに申し訳がなく、気分はどん底。

 11時40分。早くもスタンプラリー完走第1号が登場。小学生の男の子とそのお父さん。景品を渡したことの証しとして、スタンプ帳に店の社判を押すのですが、これの準備を完全に失念していて小パニック。結局黒のスタンプパッドが見つからず、銀色のものを使うことに(その後黒も発見できたので、たぶん銀はこの親子のみ。結果的には一番乗りの印になって良かったかも)。しかし早い。もちろん箱の本は一冊も見てないでしょうし、それはそれで構わないのですが(ちなみに次の人が来たのは30分くらい後)、びっくりしました。
 
 12時を回った頃、外の箱に群がっていた人々の波がいったん引いた瞬間があって、ちょっとだけですが初めて外の箱を覗いてみました。この時点ではそそられる本もまだまだ残っていましたが、僕が買うのは反則なので指をくわえて眺めるのみ。夕方になっても残っていたらそのときは、なんて考えていたのですが、実際夕方になってみたら、箱を見る余裕なんてこれっぽっちもなかったです。まあ今回は完全に裏方と覚悟してましたから、全然OKなのですが。
 あと憶えているのは、水牛の八巻さんに玖保キリコの珍しいシングル盤を見せていただいたこと。水族館劇場の葉月さんと半蔵門さんに「同じ本がたくさんあるときは売れるごとに1冊ずつ補充した方がいい」というような話をしたこと。あと、賑やかしとして自分の箱に入れた「都電荒川線新装記念乗車券」が売れたのもこの頃。ソノシートが切符になっていて、プレーヤーに載せると都電の走る音や車掌のアナウンスをバックに三遊亭圓右師匠がしゃべるというものが1000円。あと「近鉄バファローズ優勝記念乗車券」。外袋に円形の穴があいていて、そこから西本監督の笑顔が見えるという、初優勝のときのもの。300円。ほかにもシャレで入れといた切符が結構売れたのは今回の驚きでした。
 そうそう、この時間帯は最初の買い取りもありました。今日は片っ端から預かりにして後日連絡と思っていたのですが、量も1袋でしたし、出せばすぐに売れそうなものも入っていたので、計算しました。お支払いをしてすぐに1冊だけ品出し。わりと最近出た町田康のエッセイ。結局売れませんでしたけど。あと、外出しの週刊誌を持ってきてくれるおじさんもいつも通りに。これは寝かしておけるものではないので、買ってすぐに外に並べました。
 
 たぶん13時過ぎ、自転車部隊の小森くんからおにぎりの差し入れ(何となく時間がわかるのは、外で店番をしている店主の方々の顔を思い出しながら書いているから)。いつの間にか店のなかはスゴいことになっていて、お客さんの熱気でムンムン。スタンプラリーを上がった人たちも次々と押し寄せ、おにぎりを一口頬張っても次の一口までが10分、15分かかるという調子。外は外で相変わらずの人垣。でも、そんな人、人、人がみんな幸せそうにニコニコしているのが本当に印象的で、こちらも自然と顔がほころびます。「ここはやっぱりチンドンでしょう」というわけで、ソウルフラワー・モノノケ・サミットのCDをかけると、こころなしかお客さんにもさらに勢いが乗り移ったように思えて、異様にハイテンションな時間が続いて行きました。
 古本市の準備に忙殺され、ここしばらくはこれといった本を棚に出せない日々が続いていました。せっかくたくさんの人が来てくださるのに、何だか本末転倒だなあ、と落ち込んだこともありました。でも、これまで日の目を見なかった、棚のなかで不遇の日々を過ごしていた本たちが、いつもとは違うお客さんの手にどんどん取られて行くのを見ると、どうもかえって良かったようです。僕たちなんてまだまだ駆け出しですから当たり前なのですが、商売というのはほんとわからないものです。
(ところでこの日は、チラシやDMを持って見える方がとても多かったのですが、そのなかには偶然ですがこんなのを持ってみえた方も。何だかうれしかったです)

 14時半。表彰イベントで唄っていただく桂牧さん来店。この辺りでは一番安い千駄木5丁目の駐車場(徒歩15分)までご案内する間、店を空けなければならないので、急遽自転車部隊の南陀楼さんに電話。幸い近くにいらしたのですぐに来てもらい、ミカコの代わりにほうろう前の専従スタッフをお願いする。で、ミカコには店番を。駐車場に車を止めて戻ってくるまでの道すがら、桂さんにミュージシャンと肉体労働の因果な関係についての話を伺う。曰く、ミュージシャンの手の感覚はとても繊細なものだから本当は重いものなど持たない方が良い。しかしミュージシャンであるということは(なかでもロックの世界では)、日々重たい楽器や機材を持ち、エレベータのないビルの階段を昇り降りすることに他ならない。

 店に戻って15時。この頃から、スタンプラリーの景品のマッチ(内澤さんデザインのものを、みんなで手分けして糊張りしました)の残りを巡っての電話連絡が頻繁に。受け渡し場所3店舗のうち、まん中にある往来堂の減りが少なそうなので、小森くんに連絡して取りに行ってもらう(ここからの2時間ばかり、小森くんは景品のためだけでも相当な移動を繰り返してくれました)。店のなかは相変わらずの人いきれ。音楽は桂さんの『牧』。

 たぶん16時半少し前。ミカコから「このまま18時まで専従を続けると、スリップの計算が絶対に間に合わない。前倒しで計算に入りたいので、誰か呼んで外を代わってほしい」と言われる。見ると顔が引きつってます。ほうろう前は最多の17箱が出ていて、ただでさえここ数日来最後の計算に脅えていたのに、蓋を開けてみると予想をはるかに上回る人出。無理もないです。すぐに自転車部隊に連絡するも、この時点ではどっかの店番をしていたり何だりですぐには捕まらず、ともかく17時に小森くんに来てもらうことに。でもたぶん「やれることから」ということだったのでしょうが、確かこの頃から立石書店の牛イチローさんに手伝ってもらって店の奥でスリップを数えはじめていたような。この時間かけていたのは、ビーチ・ボーイズの『サンフラワー』。

 17時過ぎ、小森くん到着。ミカコは完全に裏で計算する人に。しかししばらくすると今度は南陀楼さんが表に。誰が呼んでくれたんだろう、なんて思ってましたが、南陀楼さんの日記を読むと僕だったような気もしてきました。いやはや。さすがに最後の1時間ともなると一箱軍団の勢いはなくなってきていて、店の外はまったりとした空気が流れはじめていたのですが(計算組が店内にいたことも大きい)、店のなかは逆に最後のピークを迎えようとしており、いろんな意味で僕の許容量を超えようとしていたそのとき、1本の電話が鳴りました!
「先日注文した本が届きました。で、そのとき同封されていたリストの、あれやこれやそれも送ってもらいたいのだけど、送料はいくらぐらいになるかしら。あとあの作者の本、まだあるような気がしていたけど、本当にあれだけ?」といった内容。こちらの事情を説明して、今はそういう質問に答える時間的余裕がないことを伝えようとするも上手くいかず。こちらは明日以降にかけ直したいのですが、あちらは明日から家を空けるため、この電話で注文をしてしまいたい。堂々巡り。こうしている間にもレジの前の列が5人6人とどんどん増えていく状況をわかってもらおうたって無理なのは今考えればわかりますが、そのときは泣きたくなりました。裏のミカコは事態を把握していたものの計算の途中で動けず、表にいらした水族館劇場の千代次さんが、とっさに状況を見て取って、スタンプラリーの景品受け渡しをしてくれなかったら、どうなっていたことやら。参りました。

 17時55分。外では南陀楼さんが「後5分ですよ」といった調子でカウントダウンを始める。こちらも店内のお客さんに、本日のほうろうの営業が18時までであること、ただしイベント終了後しばらくは買い物ができることを告げて回る。

 18時。古本市本編終了。取り急ぎ両脇のシャッターを閉め、イベントに向けての設営へ。ライブのセッティングをする桂さんとあれこれ再確認をし、後はスペースづくり。大きいところでは棚の移動。2月の中里和人スライド&トーク・ショーの際取付けた車輪のおかげで、昔に比べたら時間はかからなくなりましたが、ひとりではびくともしないので、店主として参加された野口さんや助教授さんに一緒に押してもらいました。あと、小さいところではカゴの撤去。まずカゴの中の雑誌を棚の最下段の隙間に突っ込み、空のカゴは重ねて棚上へという作業。みなさんの協力のおかげで、想像よりは早く終了。ここで18時20分ぐらいでしたかね、ともかく11時の開始以来、個人的には初めて一息ついたように思えました。もちろん店の裏でスリップ計算班が血相を変えて電卓叩いているのは知っていましたが、今さら僕がのこのこ出て行ってもどうにもならないですし。

 18時半位からは再びレジへ。専従スタッフがひとり、またひとりと帰ってきます。釣銭の入ったポーチや、暖簾その他の備品を受け取り、スリップの合計と現金にそれほどの誤差がなかったかどうかを訊ね、各店主の売上げが記されている表に漏れがないかどうかを確認します。当然ですが箱数が少ないスポットから帰ってきて、オヨヨ、往来堂、乱歩、月夜と眼鏡、といったあたりは時間がかかります。そこまではわかっていたのですが、どれくらいかかるかの読みは、ほうろうも含めて完全に間違ってました(乱歩の神原からの電話で知ったのですが、「暗くて計算できない」なんてまったく考えもしませんでした)。結局南陀楼さんとも協議の上、19時半開始を目標とすることに。それでもそうこうするうち笈入さんやオヨヨさんも戻ってきて、ほうろうの結果も出て、僕は売り上げチャンピオンと冊数チャンピオンの仮集計に入り、最後に山崎と神原も帰ってきました。

 イベントが始まってからのことは、参加された方は先刻ご承知でしょうし、こちらはレジにいて視覚的にも聴覚的にも全貌はつかめていないので、省略します(詳しくは南陀楼さんの日記をご覧ください)。売り上げチャンピオンのプレゼンテーターに突然指名されてびっくりしたことぐらい。相手が内澤さんだったので、緊張せずに楽しく渡せてよかったです(賞品は、主催3店舗で使える「不忍ブックストリートウキウキお買い物券」1000円。内澤旬子直筆イラスト入り!)。

 こうしてすべてが終わりました。ここまでだらだらと書き連ねてしまったので、あとは簡単に済ませます。スタッフだけになった店内で、朦朧とした頭で釣銭を検算し(翌日数えてみたら間違ってました)、たどり着いた「大栄」で飲んだ最初のビール。あんな旨いビールは初めてかもしれません。それくらいの充実感と開放感でした。ほうろうの前以外にどんな箱が並んでどんな本が入っていたのか僕は全然知らないのですが(実行委員のほとんどはみんなそうです)、でも参加してくださった方が楽しんでくださったであろうことは、みなさんがほうろうに見えたときの顔が教えてくれました。それで大満足です。あと多くの方が口々に「次回は」とか「来年は」などと言ってくださったこともうれしかったな。

(宮地)

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