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日々録   2006年5月
No.1055  2006年5月9日(火)

[連休中あれこれ]

 出勤した日は、一箱古本市の後始末をしつつ(スタッフによる反省会もありました)、店のなかに溢れかえる預かり本の計算を。非番の日は、おもに映画を観て過ごしました。また、仕事のあるなしにかかわらず、よくお酒を飲みました。

 三百人劇場での野村芳太郎監督特集では『次男坊故郷へ行く』『恋の画集』『東京湾』を新たに観ました。お客さんから「文句なく面白い」と太鼓判を押されていた『恋の画集』も爆笑に次ぐ爆笑で大いに楽しみましたが(続けて観た『東京湾』の衝撃的なラスト・シーンのせいで、すべて吹っ飛んでしまったのが、ちょっと残念)、個人的にもっともぐっときたのは『次男坊故郷へ行く』。まあ、お話自体はどうということのないものなのですが、野村監督の鉄道への愛情が満ち溢れた佳作です。

 冒頭の山間の駅舎を映すロング・ショットからはじまり、上り列車と下り列車のホームでの待ち合わせとタブレット交換。様々な角度から撮られる会津若松駅。なかでも駅長室で囲碁をさす伴淳三郎と坂本武の足元越しにホームに入線する貨車を捉えたシーンなどは、鉄道好きのハートを直撃するもので、「ほんとよくわかってるなあ」と思わされること度々でした。鉄道以外でも、会津若松の古い町並みを俯瞰で捉えた美しい映像など、印象に残る場面がたくさんありました。

 一箱古本市の翌日、たまたま時間がぽっかり空いたというそれだけの理由で、ほとんど期待しないで観たのですが、これはほんとに拾い物でした(終映後、バッタリお会いした谷根千の山崎さんも「よかったねえ」と仰ってました。良い作品を観た直後の高揚した気分を分かち合うことができて、これも幸運でした)。ここまでの何本かで薄々気付いていた「この人の鉄道好きはちょっと常軌を逸している」ということを、はっきりと確認できたという意味でも、観ておいてよかったです。小津安二郎クラスならともかく、野村芳太郎のような職人的監督のこのような嗜好について教えてくれる人はほとんどいないし、本もない。特集上映のチラシにだって書かれてません。でもそれだけに、今回のようなことがあると発見の喜びは大きいですね。

 ともかく、鉄道に始まり鉄道に終わる、あるいは鉄道に始まる、という作品が多いです。それに加えシャッポを脱がされるのは、たとえば通勤場面というサインとして使われる数秒の映像などでも、ここぞという撮影ポイントからの気合いの入ったショットが使われていること(『観賞用男性』にそういうシーンがありました)。鉄道の黄金時代という時代背景に恵まれたことも大きいですが、野村監督のおかげで後世に残った日本の鉄道風景は、いつかきっと正しく評価されると思います。

 あと、余談ですが、「男はつらいよ」シリーズにも、こうした「野村鉄道映画」の系譜を次ぐ作品があります。タイトルは忘れてしまいましたが、大原麗子がマドンナ役で、ほかに泉ピン子も出ているもの。長らく野村組で助監督や脚本執筆をした山田洋次監督による、野村芳太郎へのオマージュとか言っちゃうと大げさですが、鉄道ファンはぜひこちらもご覧あれ。


 池袋・新文芸座での松竹110年特集では清水宏監督の『有りがたうさん』と成瀬巳喜男監督の『君と別れて』を。どちらもこの日記で事前に紹介していたものですが、無事行くことができました。『君と別れて』についてはミカコが触れたので、『有りがたうさん』について。

 スクリーン上の桑野通子はかなり久しぶりだったのですが、やはり魅力的でした。これまでに観たことのある作品とは違って、身を持ち崩した流れ者の女(娼婦?)という役柄なのですが、着物の着こなしや話し方が醸し出す独特のムードがたまりません。バスのフロントガラス越しにみえる不機嫌そうな顔を見ていたら、『ナイト・オン・ザ・プラネット』のウイノナ・ライダーをちょっとだけ思い出しました。

 映画自体も、戦前の伊豆半島の風物を心ゆくまで堪能できる傑作(たぶんオールロケ)。伊豆半島を南から北へ向かう路線バスの一日を描いただけとも言える話なのに(あるいはそれゆえに)様々な要素が盛り込まれています。切り立った崖道を走るバスの様子を丹念に追ってくれているのもうれしかったですが、印象に残ったのは、そんな山道を集団で歩いていく朝鮮人労働者たちの集団(大家族?)でした。道路工事に従事しているという設定。

 また、2日間の新文芸座通いのおかげで、池袋の古本屋、往来座さんにも初めて伺うことができました。一箱古本市の準備の段階で、助っ人の方が縁を繋いでくださったのです(星祭舎さん、ありがとうございました)。町の古本屋さんにしては店内も広く、そのなかに質量とも十分な本たちが工夫たっぷりに並べられています。棚の配置も、本の分類も、整理されすぎていないため、宝探しのような感覚が楽しめるのがミソ。とくに「棚に入れる本を減らさずに、いかに面出しするか」という課題から生まれた、ゴンドラならぬ「本ドラ」は一見の価値があります。あと、お店の近くを走る都電荒川線関連の書籍やグッズのコーナーもあり、ぼくも、一番人気だというゼンマイ仕掛けのおもちゃを買いました(動きがキュートなかわいい奴です)。

 ほかにも、十条での小さな映画会など盛りだくさんの連休でしたが、その辺りについては、ミカコが書いてくれたので省略しました。


<連休中の「稲垣書店がやってきた!」

 一箱古本市当日をはじめ、連休中はたくさんのお客さんがおみえになり、中山さんの本もこれまで以上に動きがありました。
 まずは、売れたものから(売れた順。署名本については、出版社、初版・重版の違い等を省略しました)。

『”ショック”世界旅行』川口浩(昭和46年日本テレビ 1,050円)
『日本シナリオ文学全集6 山中貞雄』(昭和31年理論社 2,100円)
『映画「八甲田山」の世界』橋本忍(2,625円帯 伊藤敏彦宛署名入)
『アメリカ映画史』双葉十三郎(9,450円帯 岩崎昶宛署名入)
『今日のアメリカ映画』 〃 (9,450円帯   〃    )
『夢と祈祷師』鈴木清順(平成3年北冬書房 840円 新版帯少汚れ)
 プレスシート『女であること』(昭和33年 8,400円 スタジオメール共3種一括)
   〃   『夜の流れ』(昭和35年 2,100円)
   〃   『女の中にいる他人』(昭和41年 2,100円)
『孤愁』鈴木清順(昭和55年北冬書房 525円 2刷函欠)
『映像の沖田総司』山根貞男(昭和50年新人物往来社 3,150円)
『日本の夜と霧』大島渚(昭和47年現代思潮社 3,150円 増補版函帯)
  +
『古本屋おやじ』3冊。

 売れてしまって残念なのは、まずプレスシート3点。『女が階段を上る時』のポスターの斜め下、額の中で微笑んだり澄ましたりしていた女優さんたちが居なくなってしまって、帳場からの眺めが少々さびしくなりました。そのなかで唯一売れ残った『浮雲』のパンフレット(昭和30年 20,000円)の行き場もなくなり、いったん店頭から下げました。現在、置き場を思案中。 

 あと、双葉十三郎さんの本2冊。双葉さんと言えば『ぼくの採点表』。瀬戸川猛資さんの手で出版されたトパーズプレス版を父親が買い揃えていたので、学生の頃は帰省中によくお世話になりました。ただ、思い入れのある1冊ということになると晶文社の『映画の学校』。もう20年近く前、旅の途中に京都の古本屋で買いました。

 夜行で朝方京都駅について、ふらふらと新京極辺りまでたどり着いたのですが、まだ本屋やレコード屋などどこも開いてなく、今思えばお寺にでも行けばよかったのですがそういう知恵も廻らず、途方に暮れたことを思い出します。そんななか最初にシャッターが上がった店で見つけたのがこの本。確か3500円で、当時の自分にとってはかなり高価だったのですが、熱烈に入れあげていた植草甚一さんの「その日最初に見つけたものをとりあえず買っておくと、その後掘り出し物に当たる」理論?を信じて買いました。そのおかげもあってか、午後になってコステロやスクイーズの珍しいシングル盤も見つかり、とても良い一日となりました。その前後の記憶はまったく抜け落ちているのに、この日のことだけはとてもよく憶えていて、結果的にはそれほど影響を受けなかった本なのですが、いまだ手放せず本棚で眠っています。

「長生きしていいことがあった映画評論家は、双葉さんだけじゃないかな」というのが、中山さんの双葉さん評。先日お店にみえた際、双葉さんの本の話になったときに、ぼくの印象に残った台詞です(ひょっとしたら、映画評論家の前に「あの年代の」という注釈がついていたかもしれません)。

 その他の本について。

 鈴木清順の特価本がやっと動きはじめました。上に挙げた2冊のほか、『花地獄』(平成8年北冬書房 420円 新版帯)もまだあります。サービス品以外の清順本ラインナップは下記。もうかれこれ3週間ほど、毎日高橋英樹の顔を見ながら働いています。

ポスター『けんかえれじい』(昭和41年日活 21,000円)
『けんかえれじい』(昭和45年三一書房 7,350円 元版初)
『夢と祈祷師』(昭和50年北冬書房 3,150円 元版初)
『孤愁』   (昭和55年  〃  5,250円 初函帯)
『まちづくし』(昭和57年  〃  4,200円 初帯)
草稿「戦争映画と女の顔」
(昭和52年 ペン書200字24枚 99,750円
 ・初出「映画芸術」清順ふうワイセツ論 )

 
 最後にひとつ、大事なことを忘れてました。ショー・ウインドウに飾っている小津安二郎の彩色絵入色紙(136,500円)に電話で注文が入り、売約済みとなりました。お買い上げいただく方の好意で、展示自体はもうしばらく続けます。この電話にはちょっと震えました。

(宮地)


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