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日々録   2006年1月
No.1031  2006年1月14日(土)

[恍惚の一日]

11時から『諸君!』の取材がある。棚ががたがただったので私にしては珍しく早めに出勤。イラストレーターの池谷伊佐夫さんがいらっしゃるのだ。
私たちが古本屋として働きはじめてまもなく、池谷さんの『東京古書店グラフィティ』が出版された。当時はまだ「古書ほうろう」になる前身の「古書宮橋」で、右も左のわからぬ雇われの身であったので、遠い世界を見るような気持ちで頁をめくったのを憶えている。描かれている何件かのお店に出掛け、あぁ本当にイラストの通りだ、なんて感心したりして。勿論今でも『東京古書店グラフィティ』はわが家の本棚に収まっていて、時が経つほど深淵なる古本の自分のわからなさ加減だけがわかってきているわけだけど。
だから、池谷さんに描いてもらえるというのは、感慨ひとしおだったりするわけで。

池谷さんは11時少し前に到着され、店内をいろいろな角度から何枚もスケッチし、時間をかけて棚をご覧になっていた。これまでうちが受けてきた取材は、話をすることがメインだったので、だいぶ違うスタイル。あ、今こっちの方を描かれてる、とか思うとやっぱりファインダー向けられたみたいに緊張してしまうもので、一生懸命ふつうに仕事してるフリをしたりして。
「いらっしゃいませ、と云うんですね、古本屋では珍しい。ふつう云わないでしょ。いいことですよ。」と声をかけられ、そういえばそうだな、と。始めの頃は、あえて云わないようにしてたこともあったのだけど、顔馴染みのお客さんが増えたのと、それとは逆に中にはちょっと挙動不審な人もいるわけで、そんな人にはお客さんのこと見てますよと印象づけることで、万引き防止になるかなという気持ちもあったことを思い出したのだった。


お昼を過ぎても取材はまだ続くようだったが、私は店を抜けて、内澤旬子さんの「碧鱗堂ワークショップ---造本茶話---」へ。
この前は革の手づくり本に参加して楽しかったけど、今回は内澤さんが『青春と読書』で連載してきた本を中心に面白い造本の本などを、実際に手に触れさせてもらって、内澤さんに説明をしてもらうというワークショップ。いやいや、贅沢なひと時でした。
撮影もスケッチ(鉛筆で)もOKですよ、ということだったので、用意はしていったのだけど、見ているだけでももう楽しくて、楽しくて。
アルミホイル片まで漉き込まれもさもさとしたインドのボール紙から、葉っぱ、手透き紙、皮もいろいろで獣から鰻もありで、風合い、手触りがひとつとして同じものがない。もう、吠えたいくらい!
それらひとりでは見ただけで到底判別できない素材のことや、見過ごしてしまうであろう細部とか、見えない部分の造りとか、時代背景とか、どの本一冊とっても、宗教や、階層制度、その土地の自然など、今自分を取り巻く環境からは思いもよらないような様々な要素があってその本が存在しているというのを、内澤さんがその本に出会ったときのエピソードなどを交え話してくださると、自分の中でもどんどん見方が変わっていくのが新鮮だった。

たとえば、羊皮紙の本。見せていただいたのはローマ国立図書館による忠実に再現した復刻本や、大きな羊皮紙一枚に書かれた、契約書のようなもの、羊皮紙装の本。
本文紙にあいた穴まで再現された復刻本を開きながら、始めは虫食いの穴かと思っていたものや(そういう場合もあるかもしれないけど)、小口三方がきれいに揃っている本を見慣れている目には、頁の角が不揃いだなぁと見えるのが、本文紙といえば当然のように紙と思っているけど、ヨーロッパでは紙が伝わる以前は、羊の皮を薄く加工して紙のようなものをつくっていたそうで、だから元々が紙のように四角くないところから大事に頁をとっていけば当然角々は多少不揃いになってくるよなぁとか、皮の剥ぎ具合で薄くなったり穴があいたりするところも出てくるよなぁ、というのがだんだん見えるようになってくるのです。内澤さんからはこれまで何度か羊皮紙の説明を聞いて知っていたはずなんだけど、皮を紙のように使うってことが実感として理解できてくるわけです。(復刻の本文紙はそれを紙で忠実に再現しているのだそうです)

造りで目からウロコだったのは、インドの貝多羅葉(バイタラヨウ)本かなぁ。確かに説明を聞くと、一枚ずつバラバラの物差しみたいな横長の紙のようなものを両手で両端を持ちながら手前から向こうにめくっている映像が残像のように記憶にあるけど、やはりその実物のシンプルさを見ると、おぉ、それでいいんだよな、と気持ちが楽になるような。
バイタラというのは素材はパルミラ椰子の若葉だそうで、見せてもらったのは40センチの5センチ強くらいだったろうか。その両端からそれぞれ10センチ弱のところに一つずつ穴が開いていて、その極薄い板状の一頁一頁を重ねてその穴に長ーい紐を貫通させ更にその紐の残りで重なったものをぐるぐるっと巻くただけの、綴じるというか、バラバラになるのを防いでいるというか。本文も、その穴を避けて書いている。これなら、私にもできる。何かに応用してみたいです。

他にもいろいろ、手書きコーランの豆本には、信仰心以外の何者でもない気迫の美しさがあったし、明治期の日本の和洋混合装丁本は、小口が和本仕様の輪なのにマーブルで、おまけに背は丸みが出してあっるという欲張りな製本、チェコのクルプカさんの自家製うさぎ皮紙の函入り手製本とか、ほんとうにいろいろ見せていただきました。私は終始恍惚状態。
どうもありがとうございました。

そんなこんなで、充実の一日。
たまには、こんな日もないと。

(ミカコ)

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