2月2日

バンコクの木造の古い建築といったらあれを見なきゃね、というので、思い切ってタクシーでウィラメイクと言う宮殿に行ったら閉まっていた。乗せてくれたタクシーの運転手はとても親切で、彼のせいでもないのにすまながっていた。それで波止場まで行ってもらう。チャオプラヤー川を船で降りる。昨日の船旅に味をしめたわけ。どこかで気に入っていた赤い帽子をなくしてしまったらしい。タクシーかな、波止場かな。やりたいとすればこの船の運転手。車掌さんもかっこいい。船から飛び降りて、桟橋の杭に綱を巻く。呼吸など颯爽としている。三島由紀夫の暁の寺に出てくるワット・アルンで降りたら一見してわかる日本人の写真家がいた。今回はバンコクだけをとって歩くそうだ。

オリエンタルホテルの船着き場で降りてホテルのレストランに行く。川が見える。カオソーイとオレンジのカクテルを飲んだ。そのカクテルがものすごい量でなかなか減らない。ついに酔っ払ってしまった。ウェイターはさすがオリエンタル、周りが欧米人ばかりで、でもどんな人にもすごく丁寧でユーモアのある対応している。そこからタクシーに乗ったが、ファランボーンの駅まで渋滞だった。始発駅から地下鉄にずっと乗って、家に帰った。夜はイサーン料理屋に行って、ソムタムという青いパパイヤを削った辛いサラダでビール。トマトやナスの小さいのや、エビのペーストなどが入っているらしい。それだけではビールが飲みきれず、隣の人が食べていた豚の薄切りを頼んでみる。大正解。辛いタレにつけて食べたおいしかった。

もう浅田次郎の「天切り松」は読み切ったので、昨日から、高井有一さんの「この国の空」を読んでいる。ご存命の時に映画化されるというので文庫本が新版で出て、それをいただいたのに、読んでいなかった。名作だと思う。荒井晴彦監督が私の大好きな長谷川博巳と二階堂なんとかいう女優で映画化されたんだそう。建物疎開や配給、隣組、空襲、その他戦時中の東京での暮らしがきっちり書き込まれ、勉強になる。

街で聞く話に、妻子を田舎に疎開させた中年男と、夫を戦争に取られた若い奥さんができちゃった話をよく聞いた。その時は私も30そこそこで、ちょっと不潔に感じたものだが、確かに、お互い寄る辺のない身で、隣組で協力しあったら、そこに恋情が芽生えるのも致し方ないと思う。しかし、男が38歳の所帯持で、女が19歳というところがちょっと男性目線か。それとせっかく教員になろうとした娘を、母親が止めて、嫁に行かそうとするところなんかは、ちょっと封建的だと思う。うちの母はこの主人公の娘より3つ下で、戦後歯医者になったし、伯母はこの娘さんより4つ上で、女子大を出て文部省に努め、終戦の時は日本放送協会のアナウンサーだった。みんながみんなこんな風に母親が旧弊なわけではない。