「海にそうて歩く」番外編1 遠野‐気仙沼‐大谷海岸‐柳津‐登米‐雄勝 2003

(2009年に朝日新聞出版から出した本です。そのなかの牡鹿半島編はたった9枚しか、当時の連載媒体『アサヒカメラ』に載りませんでした。元のメモを起こし、写真とともに被災地東北にお返ししたいと思います。ここに書いた風景は失われてしまいました)

2003年8月7日

遠野を2時15分に出る列車はなかった。あわてて12時45分の快速に飛び乗る。
遠野の駅はレトロで駅舎の2階がホテルになっていた。駅員によれば釜石で1時間待ちということだったが、たった7分で三陸リアス線盛行きがきた。チョコレート色のレトロな2両編成、インテリアはシャンデリアに紫色のシート。この窓から見ると景色も不思議によく見える。車掌さんは20分待ちあわせと言ったが、3分で仙台ライナーがきた。誰もあてにならない。おかげで遠野から5時間覚悟したのに気仙沼まで3時間でついた。

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気仙沼にて
気仙沼駅の観光案内所の女性は親切だった。ここではフカヒレラーメンはぜひと言う、まだ早いから氷の博物館と鮫の博物館へ行ったらどうでしょう、とすすめてくれる。
4時前、魚市場でフカヒレラーメンを食べた。とろとろのフカヒレに細い麺、すんだスープがうまい。氷の博物館とは氷の中にサンマやタイやカニが色あざやかに閉じ込められている。氷点下20度のところに防寒服を着て入るのがなんだかわくわく。そう広くはないが、寒くて長くは居られない。

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サメの博物館は夏休みでこどもたちで大にぎわい。サメの生態や気仙沼の観光フィルムの上映もある。サメに食われて死ぬ人はけっこう多いそうだ。索餌狂乱というスゴイ言葉。血や傷ついた魚を見るとサメは狂ったように獰猛になるのだとか。イカ釣り船、マグロ船、カツオ船の並ぶ浜をぶらぶら帰る。石碑の前に立つと港町ブルースが聞こえて来た。

流す涙で割る酒は
だました男の味がする
あなたの影をひきずりながら
港 都 釜石 気仙沼

とくにご当地ソングとは思えないが、気仙沼の文字だけがやけに大きく彫ってあった。
大鍋旅館は魚町にある。男山本店、両関など古い看板建築の建ち並ぶあたり。旅館ももう7、80年続く。
「昔はこんなもんじゃなかったですよ。この内海に漁船が溢れていました、市場も向うに移ってね。だんだん寂れて」
心づくしの戻りガツオ、サンマ、ホタテ、たこ、ほや、手造り塩辛、最後にフカヒレのスープまで出た。酒は男山の「華伝」。
夕食後少しうとうとし、それから散歩がてら浮き御堂を観に行く。ライトアップされた小亭にカップルがいた。あなたも海の男、かっこいいね、と冷やかすと、「うーん、海の男を俺のサブテーマにしようかな」と笑った。

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