震災日録 7月30日

かなり人も増えてきたので昼過ぎの特急で帰る。八ヶ岳と南アルプスを久しぶりに見た。聞いた話、3・11のとき、文京区のある小学校に近隣の会社の人や学生が一時避難したら、「ここは町会の避難所なので、町会に入っていない人はいれない」と追い出されたとか。ひどい話だ。町会単位の避難所という考え方はすでに加入率がこれだけ少ないいま、崩壊している。町会を中心とした、ならまだわかるが。災害の時は町会も何もない。もしかして町会員じゃなければ乾パンは配らない、水も飲ませない、毛布も分けないなんてことにならないか。いまから心配。地域の小権力というものは厄介だ。

合宿先で27日、東大アイソトープセンター長、児玉龍彦さんが厚生労働委員会で参考人として発言したのを聞けなかった。かえって東京新聞ですら7・28日付でのせていないのを知る。彼は医師で内部被曝の専門家で、内閣の抗体医薬品の責任者も務めている人だ。何度もユーチューブで見た。まとめるとこういうことだ。

3・15日に100キロ圏の東海村で5mSvを観測して驚愕した。枝野官房長官が「さしあたり健康に問題はない」と言ったが大変なことになると思った。200キロ圏で0・5mSv、足柄から静岡のお茶まで汚染された。

しかし政府は放射線の総量をまったく報告していない。我々が計算すると広島原爆の29.6個分の熱量、ウラン換算では20個分が出ている。しかもおそるべきことに放射線の残存量は原爆は1年後に1000分の1になるが、原発は10分の1にしかならない。つまり今回のフクシマは原爆数十個分にあたり、ずっと大量の残存物を出した。

稲わらについて農林省が通達を出した3・19日には食糧も水もガソリンもつきかけた時点で、そんな通達一枚出したって情報は農家に届かないし、何もできない。それでも農家は外国から飼料を買って、のませる水も地下水に変えている。

測量が細かくできなくてはいけないのに、南相馬には1台しかなかった。米軍から20台来たけれど市役所の教育委員会では英文の説明書がわからなかった。そんな状態。食品検査を含めてなぜなぜ測定器を全国に行き渡らせるためにお金を使わないのか。まったく行われていないことに、私は満身の怒りを表明します。

私の仕事は抗体医薬品にアイソトープをつけて人体に埋め込みガン治療をする。だから内部被曝については必死に研究している。DNAは二重らせんで安定しているが、細胞分裂する時は一本になり、そこに放射線が当たると切れ、ガンに変異しやすい。胎児や幼児、成長期の増殖のさかんな細胞に対して大変な危険がある。おとなに於いては髪の毛、貧血、腸管上皮など増殖の盛んな細胞に影響する。

プルトニウムを飲んでも大丈夫と言う東大教授がいると聞いてびっくりした。α線はもっとも危険で、トロトラストと言って肝臓に集まり肝臓がんをおこす。セシウムは尿管上皮、膀胱へ集まる。ヨウ素はよく知られているように甲状腺に集まり、がんを引き起こす。しかしウクライナで甲状腺がんが多発した時にも日本やアメリカの研究者は「ネイチャー」誌に1986年以前のデータがないので統計的に有為ではないから因果関係はわからない、と投稿している。20年経ってようやく86年からのピークが消えたためにエビデンスになった。疫学的な証明は難しい。

つまり子どもを守るためには別のやり方が必要だ。すでに福島の母親の母乳から2~13ベクレル検出されていて、これにも愕然とした。20キロ圏とか30キロ圏とかいう区分けは、まったく意味がない。南相馬の海側は比較的線量は低いが、ここから飯館村に近いほうに子どもたちがスクールバスで毎日移動させられている。こんな事態は一刻も早くやめさせてください。海江田経産相と東電の清水前社長は強制避難でないと補償しないといったが、これと子どもの安全の問題はただちにわけて考えてください。

緊急避難的除染は我々も早くからやってきた。それと恒久的除染は分けるべきだ。すべり台の下はすべり台から雨水が落ちて濃縮する。10msvでてしまう。雨樋の下に苔が生えているところなども高圧洗浄機で苔をはらうと2が0・5まで下がる。こうした緊急避難的な除染は効果的で必要だ。しかしカドミウム汚染地区3000ヘクタールの半分を除染刷るのに8000億かかっている。この1000倍の土地の除染となればどのくらいの国費が必要か。

1、最新鋭の機器をつかって食品、土壌、水の汚染を改善すること。

2、子どもの被曝を減少させるために新しい法律をつくること。このままでは研究機関は法律で手足を縛られ何もできない。今われわれのやっていることはみな法律違反。

3、東レ、栗田、千代田テクノ、アトックス、竹中、それぞれの専門とノウハウを持つ民間の力を結集して国策として土壌汚染を勧めること。このままでいくと利権がらみの公共事業になりかねない。

7万人のひとが自宅を離れて彷徨っている時に国会は何をしているのですか?

東大にもまともな研究者がいた、という驚きから「涙」「感動」といった反響が多いが、人に感動している場合ではない。いっている中身をきちんと把握しなければ。

放射線治療で髪の毛が抜ける理由がよくわかった。またきのう母と「どうして原爆が落ちた後の放射線にまみれた町がこんなに復興できたんだろうね」と話し合ったのだが、児玉氏によればゲンパツの方が原爆よりはるかに放射性物質の残存率が高いのだ。

しかし福島を全て除染する費用は天文学的であろうし、除染が先か、避難が先かという問題は残っている。