震災日録 6月25日 松川賞

あさから土本典昭「原発切り抜き帖」。切り抜いた記事だけでこれだけの映画ができてしまう。小沢昭一のナレーションもすごい。それに先駆的、今もちっとも変わらない。松川賞受賞作は4本のうち、3本がテレビ番組、一本も文化映画はなかった。

「ばっちゃん引退」は広島の基町で活動する保護司のおばちゃんの話。導入はNHKらしからぬ斬新さ。でもモザイクや音声変換は説得によって避けられなかったのか。不良とか更生といった言葉への違和感。いかにも人がよさそうなディレクターの存在、やっぱりNHK的だという感じ。

「原爆投下を阻止せよ」は終戦の3ヶ月前に戦後の日米貿易などを見越してビジネスと天皇制を温存しようとしたグルーら東部出身のエリートたちと、あくまで原爆投下にこだわった南部出身のバーンズらの対立を分析。力作だし、いいもん悪いもんに分けないのはいいが、挿入される学者やジャーナリストのコメントがいかにも具合よくちりばめられている上に、その内容にも疑問が多く残った。全体にエヌスペの定型を出ていない。あとできいたら広島局の独自番組で予算もそうなかったとのこと。でもこういう番組は放送文化基金賞に応募すればいいのではないか?

「キューバ・センチメンタル」は人類学者が留学先の国で出会った友人たちの鬱屈を撮る。マイケル・ムーア「シッコ」などではアメリカと違って教育も医療もタダの夢のような国として描かれていた。ここで描かれているのはみんなで貧乏なら恐くない、とでもいうべき国。世界遺産の文化財担当者や医師といった専門職でも1ヶ月15ドル、20ドルといったものすごい低い給料で政治的自由もない。それでつぎつぎ友人たちは国を出てアメリカ、オーストラリア、チリ、バルセロナへ。残された若者の淋しさ、出て行った若者の寄る辺なさ。「やっと夢の部隊がアリゾナになったわ」「稼がなくても、納得のいくしごとをして、たたかうべき時にはたたかう」「僕らの乗ってきた船は焼けてしまった」と印象的な言葉がたくさんあって胸が焼けるような思い。それでも資本主義社会や浅い付き合いに違和感を感じ、かつての本質的な会話ができた仲間たちがなつかしいという。

「むかしむかしこの島で」米軍撮影の沖縄戦の古いフィルム、それに写っていた人々の表情。初めて捕虜になった老夫婦は敵に情報を教えたかどで日本軍に「適当に始末」される。地域の肖像権をとらえたいい番組だが、すでにあちこちの賞に応募しており、5年前の番組というのもちょっと困った。アナウンサー、平良とみ、ディレクターと三種のナレーションが入るのもやや煩わしい。

結局コメンテーターの3人が「キューバ」にいれ、一人が「むかしむかし」に、観客賞は「ばっちゃん」にと票はばらけた。まあ応募する以上、どんな感想や意見にも耐えなくてはならない。しかしそのあとに見た「カンタ・ティモール」が今年のベスト作品だ。これを見ただけできたかいがあったというような。30そこそこのたおやかな女性が撮った骨太の作品。監督のトークも素晴らしかった。チモールで起きていたことへの無知を恥じるしかない。きょうはいよとみ荘にお世話になる。