震災日録 1月19日 湯かけ祭り

昼の特急草津で川原湯温泉に。上野駅の常磐、信越本線には改札をはいったところに待合室がない。駅には30分前に着いたが喫茶店のコーヒーが450円と高い。中のホームにやっと待合室あり、それはサイン計画が悪いのでわからない。常磐線特急は新しい車両、草津は老朽車両、12時に一緒に走り出す。しかも指定席の方が改札からずっと遠い。事前に指定席を買ったが自由席に乗った。がらがら。ついでにいうとJR の窓口の若い女性はテキパキして接客態度もいいが、おじさんたちは切符を出すのも遅いし、無愛想。
2時半川原湯温泉着。降りたのは3人。第二湖面橋の高い橋脚がにょっきり。景観がどんどん変わって行く。本体にはまだ手を付けていないが付け替え国道の工事はどんどん進んでいる。かたかたかたかたかた、という啄木鳥みたいな音はエコ工事だそうな。それでも一日鳴っている音。川原湯温泉はもう数軒しかない。地元の生活再建といっても残ったのは少数、大事なことだが、彼らのために不必要な巨大工事を続行するというのは単なるいいわけ。ダムができると思って引っ越した人たちのために続行するというのもおかしい。住民がおじさんがダムの仕事もらっているから反対できないというのもおかしい。でもそんなおかしなことばかりが積み重なって自民党の政治家や官僚のいいなりになって計画は60年近くまえからあり、その割に進まなかった。小さく産んで大きく育てる、2400億の予算が1兆円を超える。引き返せない、まるでインパール作戦みたい。
いまの高山町長のお父さんは器用な人で、頭の方も小回りがきいて推進に鞍替えした。山木館の奥さんのお父さんが反対派だったのに、町長になったら県や官僚と話し合わないわけにもいかず、苦渋の末に賛成に転じた。能登半島志賀原発の反対派がいっていたように交渉のテーブルに着いたら負ける。あの手この手で懐柔してくるのだから。犬でもけしかけておくことだ。遊覧船に乗せて沈めてやると官僚を脅すことだ。海洋調査なんて認めたら「まったく影響がない」というお墨付きを御用学者が出すに決まっているのだから。反対しようと思ったら議員や町長になってはいけない。
あちこちに旅館の残骸。高田屋さんをこわしたあと。いまは柏屋さんをこわしている。
さっそく透明な湯に入り、温まる。それから共同浴場王湯のあたりで祭の準備を見て、また露天風呂につかる。うたた寝しながら相撲を見る。白鵬が負けた。びっくり。
6時にご飯、それから住民のはなしを聞く。テレビでダム再開に万歳していたのは地権者たち。うんとお金が入るもんな。崖地は5000円、道に面した一等地は十数万、しかし売って代替地に上がるとすると坪18万で買わなくてはならない。無理して造成した土地だからそれでも赤字だそうだけど。坪18万出せば前橋駅前の一等地が買えるという。そんなにしても川原湯に残りたいのか、ノマドの私にはわからない。でもみんな不安は持っているもよう。宿のご主人と一杯。「昔はよかったなあ、きれいどころが30人もいて、みんな話や座持ちのうまい芸者ばかりだった。嘉納治五郎の別荘をこわしたのは残念だったよ。あのまわりに置屋があって芸者さんが住んでいた。この物置のようなバーだって3人も女性を雇っていたんですよ」
12時にお開き、ちょっと寝るともう湯かけ祭り。雪がふってきれい、でも足は滑る。
「お湯わいた」が「お祝いだ」に通ずる。大寒の日に400年も続く祭り。わが娘も胸にさらしを巻き、女性としてはただ1人、桶にお湯を汲んではみんなにぶっかける。あったかいみかんも飛んでくる。びしょびしょになって、芯から凍えて終わる前に宿に帰り、温泉に浸かって仮眠した。