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元倉眞琴さんのこと、そして根津藍染通りの印刷会社のこと

昨年秋、建築家で芸大名誉教授の元倉眞琴さんが亡くなった。とても寂しかった。
元倉さんと最初にあったのはいつだったか。彼の代表作、山形朝日町の複合文化施設を見に行ったこともある。
芸大祭での対談も頼まれたことがある。そして、3・11後、谷中コミュニティセンターの建て替えについても様々な協力を得た。そもそも谷中コニュニティセンターは40年ちかく前に、住民たちが100回以上の協議を重ね、自主管理型の地域センターとしての歴史を持っている。中にはいくつかの集会室のほか、図書室、学童保育、お風呂まであった。区側の管理は2人程度でやっていた。建て替えにあたっては「防災センター」として位置付けがされ、上野の区役所が万が一、災害時に機能しなくなったら、谷中を区役所にするという代替機能も期待された。

しかし、3・11後、東北の避難所や仮設住宅の支援に行った住民も多く、「本当に命の助かる防災センター」とはなんなのか、2011年の夏頃、真摯な討議がなんども持たれた。すでに基本設計者、実施設計者が決まった後で、区側の顧問格であった元倉さんに相談したら「今ごろ、そういうことを言い出すのは後出しじゃんけんだ」と叱られたのを覚えている。しかし、それでも住民たちの声に耳を傾け、旧近藤邸の跡地、谷中防災ひろばと一体化して使えるように、計画を柔軟に考え直してくれた。結果として良い施設になったと思う。

その後、2013年からの、新国立競技場計画に対して、槇文彦さんが問題提起されたザハ・ハディド氏の当初案を見直す運動を起こし、連携を取りあってきた。建築家と私たち市民を繋いでくれたのは、主に元倉さんや中村勉さん(東京建築士会会長、文京区在住)であった。この巨大で、環境と景観を破壊し、高額で、維持費もかかる計画を撤回させたのは、この国にとっては大変な成果だったと思う。

元倉さんは、雑誌の谷根千を長年、置いてくれた千駄木のどんぐり保育園の拡大に伴う建物を依頼され、敷地を探していたのでお手伝いしたこともある。その敷地は、藍染大通りの左側の印刷会社後に決まり、設計も進んでいた矢先、急逝された。72歳、本当に残念だ。


壊される根津の印刷会社

さて、印刷会社は108年前の建築で、つまり明治30年貴重な町屋である。このところ、オリンピックの前に街のあちこちで建て替えが進んでおり、また一つ、歴史的な建物が失われるのは惜しまれる。バブルの前には瓦屋根の低層の町屋ばかりだった根津も、横丁にも3、4階建てのマンションがたち、今、屋上から見てまとまって残る瓦屋根の町屋はこの一角くらいである。それで「たいとう歴史都市研究会」の椎原晶子さんらの呼びかけで、1月13日の土曜日から、実測調査が行われた。「たてもの応援団(文京歴史的建物の活用を考える会)」の仲間も駆けつけた。こうした両区の市民団体がコラボできるようになったのはすごいことだ。

幸い、30年も前、トヨタ財団からの研究援助を受けて、藍染大通りの町並み調査はしてあった。
「そもそもは根津神社から藍染川までは甲府宰相松平綱豊の屋敷だった」「この通りがこんなに広いのは、坂上のあかじ銀行の渡辺邸に馬車で行くためだ」「渡辺邸の後は一時、中華料理の緑風荘になっていた」「反対側の大名時計博物館のところは、渡辺六蔵という一族の屋敷だった」「渡辺銀行の倒産後、この辺は根津嘉一郎のものとなり、今もその系列の日本殖産が土地を持っている」「家には職人も含めて10人くらい住んでいた。物干しは隣と二軒ぶん使えるようになっていた」「この通りには全ての商店が揃い、なんでも買えるので他所に行く必要がなかった」「道の入り口にはあかじ銀行の支店があった」「今は澤の屋さんに泊まる外国人がトランクをひきずって歩いている」といった話を聞いた。その時の図面を書いた児島理志さんに20年ぶりくらいに会えたのも嬉しかった。


法政大学の学生の作った模型

その時に聞いた話によれば、この建物はもともと吉為という米屋で、その後、スーパーになったり、50年ほど前から戸塚技術印刷とパン屋さんが入っていた。重い機械を置いたところ、地下の土管が壊れたことなどが、廃業のきっかけになった。根津のこの辺には印刷工場が多かったが、出版印刷がインターネットに押され、職人仕事がコンピューター管理になり、納期がきつい割に売り上げが減ったりしたことで、廃業に至ったところが多い。


実測調査風景

実測調査をしている一階には、法政の学生が作った見事な模型が飾られていた。隣で「アイソメ」というスペースを運営している建築家・栗生はるかさんの仲間たちである。洗濯物やパラボラアンテナまで再現した、手作りの温かい模型だ。土曜日なので、人通りも多く、実測の様子や模型に興味を持ち、カメラで撮影する人も多く見られた。この印刷工場をリノベーションして別の用途で使う道もなかったか、と思う。一つまた古い建物が消える。でもその前に、記録すること、みんなの目の底に残すことは大事だなあ、と思った。

一見、繊細なインテリに見えた元倉眞琴さん、本当は台東区育ち芸大卒業の下町っ子、いざという時頼れるお兄さんだった。安らかにお眠りください。

2018年1月20日   森まゆみ

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