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子規の音


この度、新潮社から「子規の音」という本を書きました。谷根千創刊時から豆冨料理「笹の雪」、「羽二重団子」という江戸からのお店、中村不折の集めた「書道博物館」、「カフェド花家」さんには谷根千を置いていただいており、その辺は私の配達担当でしたので、三ヶ月ごとに自転車で走っていました。ひとつ山を越すと根岸という不思議で繊細な町があり、その頃は下見張り木造瓦葺きの家がたくさん残っていました。59号でやっと「子規の四季~~根岸に生きたネアカな文人」という特集を仲間たちと作りました。それから19年、ようやく本になったことになります。 子規は今まで書いた文人の中で、最も私の好きな人です。まあ、一葉も、漱石も、鴎外も円朝も、みんな好きだけど。最後まで貧乏だったところも気に入っています。

子規は慶応3年、松山の下級武士の家に生まれ、明治16年、上京して神田にあった共立学校で勉強して当時、最難関の大学予備門の試験に合格しました。この共立学校は震災後に日暮里渡辺町に越し、そう、今の開成学園です。
開成学園で私は正岡子規や秋山真之の学籍簿を見るという幸運に恵まれました。
結核になり、この先何年か見えない子規は、予備門から進んだ東京大学を明治25年にやめてしまいます。その頃、陸羯南の隣、上根岸町88番地に住み、陸の経営する「日本」新聞の記者となります。のちに82番地に越して、日清戦争従軍で一気に病が重くなったあと、最後の7年ほどは根岸の小さな家の六畳間に身を横たえました。

移動もできず、視覚に見える風景も限られていたので、聴覚や触覚が異常に研ぎ澄まされた気がします。そこで音の聞こえる句が多いのかもしれません。また子規の句は、根岸の明治20年代~30年代、まさに農村が街場に変わりつつある頃の根岸をよく写し、また上野、谷中、道灌山あたりも歌われています。そして、寝ていたせいか、視点が低く、建て混む下町の働く人々がよく描かれています。以下、横書きですが、本文中に取り上げ損なった、好きな句をあげます。

下駄箱の奥に泣きけりきりぎりす
居酒屋の喧嘩押し出す朧月
蠅の舞ふ中に酒飲む車力かな
豚煮るや上野の嵐騒ぐ夜に
夕月に大根洗ふ流かな
草臥れはせぬか彼岸の鉦叩き
吉原の廓見えたる冬田かな
駒込の坂を下れば冬田かな
あかがりや傾城置いて上根岸
下谷区の根岸の奥の風涼し
村会に月のさしこむ役場かな
芋屋の前に焼けるを待つ下女子守なんど
夏草や事なき村の裁判所
闇の夜をめったやたらの野分かな
芭蕉忌や芭蕉に媚びる人いやし
新米や妻に櫛買ふ小百姓
湯を抜くや菖蒲ひっつく風呂の底
昼顔やきのふ崩せし芝居小屋
こほろぎや犬を埋めし庭の隅
寒き夜の銭湯遠き場末かな
行く春ややぶれかぶれの迎酒
大関にならで老ひぬる角力かな
看病や土筆摘むのも何年目
芹薺汽車道超えて三河島


なんか、当時の根岸あたりが目に浮かびますねえ。村会だなんて。村に裁判所はあるけど、事件もなく、実に平和だったんですね。ユーモアもたっぷり感じられます。最後から三つ目、関係ないけど、稀勢の里は大関に、そして横綱になるまでハラハラさせられましたね。最後から二つ目、妹の律が、ずっと自分の包帯をかえてくれて、看病ばかりしているのに、久しぶりに土筆摘みに誘われて行ったんですね。よかったな、という子規の思いが見えるようです。

子規、今年生誕150年。出版は今厳しく、本の部数も厳しく、根岸には谷根千を配達していた本屋さんが4軒とも消えました。博進堂書店、田中書店、浩文堂書店、ネギシ書房、残念です。この4つがあったら置いていただけるのになあ。どこの書店も閉店に際し、きちんとお互い挨拶をし、清算できたのが気持ちよかったとは、仲間の山崎の弁です。
心血を注いだ本が、良き読者に届くことを心から願っています。

書を読むや蚊に刺されたる足の裏

2017年6月2日   森まゆみ

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