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手は語る−日暮里の町工場を歩く

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〈6〉おかみさん
2005年2月26日(土)  阿部清司 あべ・きよし
〈6〉おかみさん  川口ワイヤーブラシ製作所の仕事場は、七畳弱ほど広さだ。入ってすぐに『プレス機』、その横に『ボール盤』と『切断機』、向かい合う形で『横ねじり機』がある。少し離れて切断面を研磨する『リューター』と『縦ねじり機』、奥に作業台。さらに奥には『旋盤機』などの加工機械。床には、日暮里で独立した30年前に一本1万円したという、松材を使用し続けている。この工場(こうば)で、ご主人とおかみさんの二人が作業する。
 川口さんは独立と同時期に、おかみさんの洋子さんと見合いで結婚した。
 主人「うちの母ちゃんは、和裁で有名だったんだよ。三波春夫、九重ユミコ、魁皇の親方のその親方、なんかの着物をつくっててね。はじめは、俺より稼ぎがいいんだからさ。でも、この商売(ブラシ屋)は、一人じゃできないのよ。だから、不承知だったろうけど辞めてもらって、手伝ってもらってるわけ。そりゃ助かるよ。和裁の関係からは、惜しまれたみたいだけどさ、今じゃあ着物を着ている人なんか見かけないでしょ。だから、ちょうどよかったんだよ。なあ、母ちゃん」
「俺の悪いとこはね、頼まれたら断れないのよ。それを知ってて問屋さんも注文してくるわけだ。だから忙しくてかなわない」
 おかみさん「うちの人はね、注文の順番通りに仕事をしないんですよ。仕事がたまるでしょ、すると、せっつかれた順にやっちゃうのよ。だから私が、こっちが先でしょって……。先方に電話で答えようがなくなったら、困りますからね」
 主人「金額にしろなんにしろ、強気の商売させてもらってるね。せっつかれねぇと、納期も守らないしさ。まあ、そりゃ冗談だけど。はははは。だから、家内に怒られます」
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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阿部清司 あべ・きよし 建具見習い、時々ルポライター
1974年生まれ。2000年9月に神奈川から谷中へ住まいを移す。いくつかの業界紙・誌の記者職として生計を立て、04年5月からフリーとなったが同年末にあえなく撃沈。05年1月、神奈川に帰り、家業の建具屋の職人に見習い小僧として弟子入り。「谷根千」67号74号78号に「日暮里駄菓子問屋街」の取材記事を寄稿。菓子業界はじめ、さまざまな工場に出かけて職人の話を聞く。
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読者2005年2月26日(土) 13時01分
この連載を楽しみに読んでいる。仕事しているんだ、というのがひしひし伝わる風景だ。小さな場所から、広い世界を見ている気がする。 わたしが昔住んでいたところも小さな工場がぎっしりあって、早朝から夜遅くまで、ガタガタ音がした。休日も音を出し...
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