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手は語る−日暮里の町工場を歩く

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〈4〉親方のこと(上)
2005年2月16日(水)  阿部清司 あべ・きよし
〈4〉親方のこと(上)  労働者の人間性はいたる所で好ましくあらわれている。彼らはみずから過酷な運命を経験しており、だからこそ、不遇な人にたいして同情することができる。ブルジョアにとって労働者は人間以下であるが、労働者にとってはどのような人間でも人間である。だから労働者は有産者よりもつきあいやすく、愛想がよい。
                      ――エンゲルス、一條和生・杉山忠平訳

 親方のこと? 俺はブラシ屋の本家で修行してるのよ。浅草警察署の近くにあった『島田ブラシ』。そこが親方。名前は島田醇一(じゅんいち)っつう人。
 きっかけは、おばさんの紹介よ。駒込で料亭をやっていたおばさんがいたんだけど、そこに客としてうちの親方が通ってたわけ。そのおばさんが、うちに若いのが一人いるんだけどって親方に頼み込んだわけだ。ところが、それが、えれえ親方。
 昔の親方ってのは、外面ァ好いけど、複雑なの。京橋に家庭をもちながら、もう一軒、浅草に二号さん。その人、元芸者。で、その浅草が奉公先。えっ? そうだよ、お妾さんの処に住込みだよ。
 おかみさん(お妾さんのこと)は芸者あがりだから、料理をつくれないんだか、つくらないんだか。めしなんか、ヒデェもの。ご飯と味噌汁だけ。あと、たまにおしんこ。自分たちは、11時半ごろ外へ行って喰ってきちゃう。それで12時ごろ戻ってくんだから。こっちはめし喰って、休む間もない。たまに(お妾さんが)めしとぎゃ、針金が入ってるしな。それでいて親方は、おかみさんにお燗つけてんだからさ。参っちゃうよな。
 親方は見栄っ張りでね。三社祭ン時に寄付金の額で、浅草の松屋と競ったりしてんだよ。こっちは、たかがブラシ屋だよ。まったくさ。
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阿部清司 あべ・きよし 建具見習い、時々ルポライター
1974年生まれ。2000年9月に神奈川から谷中へ住まいを移す。いくつかの業界紙・誌の記者職として生計を立て、04年5月からフリーとなったが同年末にあえなく撃沈。05年1月、神奈川に帰り、家業の建具屋の職人に見習い小僧として弟子入り。「谷根千」67号74号78号に「日暮里駄菓子問屋街」の取材記事を寄稿。菓子業界はじめ、さまざまな工場に出かけて職人の話を聞く。
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