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手は語る−日暮里の町工場を歩く

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〈3〉ブラシ屋の手
2005年2月11日(金)  阿部清司 あべ・きよし
〈3〉ブラシ屋の手 「だって相手が針金だもん。そりゃケガするわな」
「でも商売柄、キズには強いよ。手だけは、何があっても化膿しない」
 そう言って、ブラシ屋の川口さんが披露したのは右手の小指。その爪のすぐ横を見ると、黒い小さな点を中心にして直径5ミリほど赤くなっていた。いくらか腫れているようだ。
「一週間も経てば、勝手に出てきちゃう」
 訊けば、数日前に極細の針金の切れ端が刺さって入り込み、それが出てきた直後だ、という。つまり、金属の棘が入っていたようなもの。これが昨年11月のことで、年が明けてから見ると、たしかにキズ跡がキレイになっていた。
 川口さんの手は、とくに右親指と人さし指間のつけ根の部分が硬くなっている。
「そこ(つけ根)が一番大事だからさ」
 針金細工でラジオペンチ、スパナ、げんのうなどを使うので、つけ根は酷使されるのだ。
『横ねじり機』の前に立つ川口さん。ブラシ部になる極細のたくさんの針金を、心棒になる太めの針金2本の先に挟む。
「俺ね。3ミリくらいの針金を掴めるわけ。それで、だいたい分量も判っちゃう。指が器用に動くわけだ。まあ、長年の勘というより技能だね」 
 ウゥム、なるほど。ところで、川口さん。爪が黄色いのは?
「ああ、お昼ン時に蜜柑を食べたからね」
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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阿部清司 あべ・きよし 建具見習い、時々ルポライター
1974年生まれ。2000年9月に神奈川から谷中へ住まいを移す。いくつかの業界紙・誌の記者職として生計を立て、04年5月からフリーとなったが同年末にあえなく撃沈。05年1月、神奈川に帰り、家業の建具屋の職人に見習い小僧として弟子入り。「谷根千」67号74号78号に「日暮里駄菓子問屋街」の取材記事を寄稿。菓子業界はじめ、さまざまな工場に出かけて職人の話を聞く。
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