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手は語る−日暮里の町工場を歩く

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<2>ブラシ屋(下)
2005年2月6日(日)  阿部清司 あべ・きよし
<2>ブラシ屋(下)  ハンマーの一撃一撃には、はっきり決まった価値がある。そこから労働者はいつも、運を規定しようとする傾向がある。彼は生まれながらの立法者なのだ。
                    ――アラン、神谷幹夫訳

 2005年1月某日、川口ワイヤーブラシ製作所で手がけていたのは、一本当たり500円の『ツイストブラシ』(写真右)と『サイタフトブラシ』(同左)の二つ。ともに先端ブラシ部には産業用ダイヤの粉末が入っていて、最終的な行き先がドイツのベンツ社だ。新車ベンツが市場へ出る前に、エンジン燃焼機関や油圧系にある目に見えないキズの研磨(クリーニング)を行う際、川口のブラシが使用される。
「他の仕事がなんにもなけりゃ、一日で200本ぐらいできんのかな。ねえ、母ちゃん」
 川口さんの問いかけに、黙ってうなずく、おかみさんの洋子さん。続けて川口さんが、
「この仕事は加工賃だけなんだよ。ちょっと複雑だけど、ダイヤの素材屋さんから、うちに材料が支給されて、うちが加工したもんをその素材屋に戻す。それを素材屋が商社に売って、その商社がドイツの商社に売る。そこからようやくベンツだ。複雑でしょ。へへへ。まあ、年間で3000本くらいだから、たいした額にはならねぇんだけど」
 500円掛ける3000本、つまり年間150万円の仕事。取るに足らない、すき間産業かもしれない。しかし、ベンツは複雑な流通を経てまでも、川口のブラシを求めているのだ。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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阿部清司 あべ・きよし 建具見習い、時々ルポライター
1974年生まれ。2000年9月に神奈川から谷中へ住まいを移す。いくつかの業界紙・誌の記者職として生計を立て、04年5月からフリーとなったが同年末にあえなく撃沈。05年1月、神奈川に帰り、家業の建具屋の職人に見習い小僧として弟子入り。「谷根千」67号74号78号に「日暮里駄菓子問屋街」の取材記事を寄稿。菓子業界はじめ、さまざまな工場に出かけて職人の話を聞く。
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