タカノには、晴さん以外に二人の職人がいる。
一人は軽部清男さん67歳。タカノで働いて、40年になる。社長のことを、晴さんと呼び、みんなからは、清ちゃんと呼ばれていた。ただし、清ちゃんが「晴さん」と呼ぶことは、めったにない。「おう」とか「ああ」とか、よく分からない日本語を頭につけて、会話の口火を切っていた。これが40年という歳月なのかも知れない。
もう一人は佐々木孝(たかし)さん66歳。6年前からタカノで働いている。以前は、舞台制作の会社に所属していた。そこで、手がけていたのは、よく展示会などで見かける、新型の乗用車の下にあるターンテーブルなどだ、という。
佐々木さん「前の会社で定年を迎えて、それでも何処かで働きたかったんだよ。この(タカノ)近くに友達の家があってさ、こんな所に工場(こうば)があるなって思っててさ。ある時、社長(晴さんのこと)に”働きたい”って言ってみたんだよ。そしたら、社長が”来てみな”ってことでよ・・・・・」
清ちゃん「この人(佐々木さんのこと)は何だってできるもん。もう手放せぇねぇよ」
佐々木「そうするとよ。また道具が欲しくなっちゃってさ。人の鉋はやりづらいんだよ」
清「鉋も人によって癖があるからな。右に曲がったり、左に曲がったりすんだよ」