
文房具屋で見かける、三文判がたくさん入ったシャチハタのネームケース(陳列用の箱物什器)。三文判の市場占有率を圧倒的に誇るのが、この手のネームケースを開発した「シャチハタ」で、ケースの製造元はプラスチック製品のメーカー「三進」だ。ネームケースの木部を手がけるのが、東日暮里2丁目の万(よろず)木工『有限会社 タカノ』である。
「いちばん辛いことが何かってか。そりゃ、仕事の量が減ったことだよ。だから今は、できるものなら、何でもやっていかないと駄目みたいだね」
晴(はる)さんこと、タカノの高野晴夫(はるお)社長61歳は言う。
タカノは戦前から続く、和家具の製造屋だった。当初は鏡台を専門としていたが、時代の流れと共に、火鉢、食器棚、茶箪笥など、大物小物を問わずに箱物、棚物の家具を製造してきた。しかし、徐々に家具では立ち行かなくなっていく。
数十年前、まだ規模の小さかったシャチハタの製品を(孫請けとして)手がけ始めた。約30年前頃には、シャチハタの仕事だけで、月に600万円稼げたこともあったという。現在、シャチハタのネームケースは8型ほどあって、最も寸法の大きい型が「シャチハタ・ネームケース1560」だ。その名の通り、1560本の三文判が陳列可能で、タカノの手間賃は1台につき、1万5000円。
「今では、1560型が、月に5、6台も出ればいいところだなぁ」