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あれやこれやの思い出帖

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49 古本番長野良犬機動隊
2006年12月15日(金)  坂口和澄 さかぐちわずみ
  さて、思いっきり間を開けて、息子の亜紀(つぐとし)が“古書ほうろう”さんのネタの続きを。


 ストライクド真ん中の『CINEMAFANTASTIQUE』誌のもう一冊は、メインの特集が『プライムヴァルス』という作品なのです。この映画を観た人は、〔断片を除いて〕世界に一人としておらんのですが、30代以上のSF映画好きにとっては忘れられないものです。
 何故か。――を話す前に、説明をひとくさり。皆さんは、人形アニメもしくはモデルアニメをご存知でしょうか? まあ簡単に言えば、関節をきっちりこさえた人形を徐々に動かして一コマ一コマ撮影し、動いているように見せる映像テクです。若い人に一番わかりやすいのは、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』('95)やら『ピングー』(TV・ただしコイツは粘土人形のクレイアニメ)といった作品でしょうか。
 モデルアニメを天下に知らしめた作品は、1933年の一大傑作「キングコング」です。コマ撮りされた巨猿・恐竜の、当時としては信じがたいリアルな動きに、多くの人々は目を見張りました。特殊効果を担当したのはウィリス・H・オブライエン。当時の映画界の常識では、ポスターに名前すらのりませんでした。しかし、観客の中からは、その技術に驚嘆し、映画界へ飛び込むこととなった者が幾人もおりました。『シンドバット七回目の冒険』('63)といった作品で見事なコマ撮りを見せてくれた、レイ・ハリーハウゼンがその代表格です。一つ目巨人やガイコツ剣士のチャンバラを思い出す方も二人か三人はいらっしゃるでしょう。
 さて、この『プライムヴァルス』という作品は、前述したオブライエン、ハリーハウゼンに感化された元特撮小僧、のちに幾多の作品で腕をふるったディヴィッド・アレンという男が企画した、一大冒険怪獣絵巻大作!!になる予定だった作品なのです。
“だった”と書いたのは、現在に至るまで、何度も何度も何度も何度も製作開始が告げられながら、ついに完成されなかった悲運の作品、「SF映画版 バベルの塔」とも言えるものなのです。そしてアレンは、‘99に惜しくも世を去りました。モデルアニメ怪獣映画研究同人誌(って素晴らしいモノがあったのですよ)で、ついに完成一歩手前!!の記事を読んだ後での訃報はショッキングでした。
 ちなみに、『プライムヴァルス』の製作をポシャった会社の一つが、前述(第38話)した英国のハマープロ。同時入手のこの二冊にも何か因縁めいたものが見えるような、見えないような……。
 さて、昨年公開された2度目のリメイク版『キングコング』('05)は、CG大っ嫌いな私としましては、“クソったれ”の一言で片づけたい3時間の「時間の無駄」でした。TVゲームに文字通り毛の生えた程度のコングや恐竜の重量感のない派手な振り付けやら、今どきっぽいイライラするカメラワークに、私の求める“特撮映画”のニオイはありませんでした、こんな御時世に、もしもアナログ全開特撮で『プライムヴァルス』が完成していたら、そしてそれが期待に違わぬ出来だったら、人々は少しは旧来技術の良さにも目を向けてくれるんでしょうか? せめて共存させましょうよ、クソCGとでもいいから。

*第38回は坂口亜紀(つぐとし)氏の執筆です。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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坂口和澄 さかぐちわずみ 不自由業
1934年台東区根岸生まれ。現在上野桜木町に在住。デザイン仕事のかたわら、中国史を研究。著書に「正史三国志群雄銘銘伝」(光人社)、「三国志群雄録」(徳間文庫)などがある。「谷根千」82号に「根岸だより」を寄稿。
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