50 古本番長一網打尽
もしも前回書いた『プライムヴァルス』に興味を持たれた方は、洋泉社刊の『モンスター・メイカーズ』という本に詳細に書かれていますのでご一読を。ちなみに“古書ほうろう”さんにも一冊あった気が……('06年11月現在)。
とまあ、前回書いたようなマニアックな洋書の類いがポンとある“町の本屋さん”ってのは実に有難いもので、「また何か出るかも知れない」、「多分これらは何かの事情で同じ人、おそらくSFコレクターが手放したに違いない」等といった妄想も生まれて、毎日を楽しく過ごす糧の一つにもなるんですな。
「古書の来歴を妄想する」と言えば、私の手持ちの映画パンフにビターな味を醸し出す一冊が。
タイトルは『残酷人喰大陸』('74)、諸般の事情から詳しくは書けませんが、“ある大陸のある人々”の風習を、'70年代テイストで調理したエグく、キワモノ感たっぷりの(エセ)ドキュメント作品なんですが、パンフの最後ページの書き込みに泣かされました。
“○○年○月 父と”□□。
“父”ですよ、アータ!! 書かれた文字のつたなさから見て、まだ小学生程度。たまの休日に、「オイ、映画でも行くか?」と連れて行かれた先が『残酷人喰大陸』だったとは!!
なんか薄倖そうな匂いをあなたは嗅ぎとれませんか? 嗅ぎとれない? ああそうですか。私には、しかし見えるんですよ。不愛想で武骨なガタイのいいオッサン(父)が、めったにしない家族サービスを突然発作的に思い立ったが、悲しいかな、普段やりつけないことだからどう動いていいか分からない。“そうだ!! 映画でも行くかと、スポーツ新聞の興行欄をチェック。子供の喜ぶものったら怪獣……、やってねえな。だったらオバケ……、ん?『残酷人喰大陸』?人喰いもオバケも同じだろっ!!――こんな悲しくも、ある種美しい短絡思考の果て、映画館に佇む父と子の姿。息子にして見れば、4歳の春の東映マンガ祭り以来の父と行く映画だから嬉しくてたまらない。たとえそれが『残酷人喰大陸』であろうとも。上映後、買ってもらったパンフを見ながら会食する父子。「恐かったね」「いや、父ちゃんは全然平気だぞ」。虚勢を張る父は、しかし、先ほどのグロな画面を思い出し、目の前のレバニラ炒めにハシが伸びない……。
どうですか、見えて来たでしょう、美しくもちょっぴり切ない“昭和”の一時期の情景が。一般に、パンフに限らず、古本マニアには忌み嫌われる「書き込み」ですが、たまには資料的価値のあるもの――例えばどこぞの映画館ではB級西部劇『鷲と鷹』('70)の同時上映がサム・ペキンパーの名作『砂漠の流れ者』だったと書いてあったり――や、元の持ち主の心情が窺える味のあるものだったりして。私のような人間にとっては“安くなる上に楽しめる”得がたいブツになるんですな。
*第50回は坂口亜紀(つぐとし)氏の執筆です。
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