38 古本番長骨までしゃぶれ
初めにチェックを開始したのは映画パンフでした。どれも状態が良く、しかも割と安めな価格設定でしたが、西部魂と警官魂みなぎる私の映画好みからは、アウトコースへ球3つ分はズレている、アート色とミニシアター色の強いものが多く、やや残念な結果に終わりました(しかし、この後には、かなりおいしい思いをさせていただきました。敬愛するコメディアン、ピーター・セラーズの『何かいいことないか子猫チャン』('67)の美品パンフをたった500円で購入し、部屋の飾りとなっとります)。
洋書の映画ものも結構あったなと棚を見ていると、小判のペーパーバック・サイズのきらりと光るダークネスな一冊が!! ありました、何ということでしょう。英国が誇った今は亡き(ってフレーズばっかですな)名門怪奇映画プロダクション「ハマー」社の作品を綴った『A HERITAGE OF HORROR』という一冊。ハッキリ言って、専門店ならともかく、(失礼ながら)町の古本屋さんにヒョコヒョコと現われる類の本ではありません。確か、70年代中期に発行されたものなのです。値段を見ると、驚きの1000円!! 自分の英語力も忘れ、購入の決意を固めましたよ、私は。
さて、ニヤニヤ顔を抑えつつも、雑誌コーナーに移った私は、腰を抜かしました。度肝も抜かれましたよ、腰とともに。やはり70年代前期に発刊された米国製SFホラー専門誌『CINEFANTASTIQUE』が数冊ありまして、しかもその中に“ストライク、ど真ん中の絶好球”が2冊もあったのですよ!!
一冊はメインの特集が、『A BOY AND HIS DOG』('75)。『少年と犬』のタイトルでビデオ・DVD化されている作品です。原作はハーラン・エリスン。名作SF『世界の中心で愛を叫んだけもの』の作者です。若手の人気俳優なんかじゃなく、愛を叫んだ先駆者はケダモノでした。
閑話休題。
この映画、デッドテックなウス汚い近未来像を作り上げ、その後の『マッドマックス』シリーズ('79〜)の世界観のヒナ形とも評価されております。『マッド〜』が日本の人気マンガ『北斗の拳』に影響を与え過ぎているのは有名な話で、ひょっとすると『少年と犬』がなければ『北斗〜』の存在も無かったのかも知れないのですな。私個人は『北斗〜』に、思い入れゼロ・メートル地帯に住んでますので別に構いませんが、いまだキャラ商法で盛り上がると聞くパチスロ業界はどうなっていたのでしょうか?
話を戻しましょう。『少年と犬』の製作者は、俳優のL.Q.ジョーンズ。'60〜70年代に西部劇で活躍、近年も『カジノ』('99)等に顔を出す、汚いオッサンです。最後の西部劇作家サム・ペキンパーとの親交も厚い人でした。本作はそのL.Q.氏が映画化を希望した企画です。ハタから見ると、粗暴な監督(ペキンパー)と粗暴な俳優(L.Q.氏)の粗暴な付き合い(大酒、ケンカ、暴走、女遊び)しか想像できませんが、ペキンパー監督は、レイ・ブラッドベリ原作のリリカルなファンタジー『何かが道をやって来る』の映画化を切望しておりました。L.Q.氏は本作を見事作り上げました。二人のヴァイオレントな外見、作風からは全く見えてこないファンタスティックな資質に、映画ファンは驚嘆しつつも微笑ましいものを感じるのです。
中途半端に、以下、次週。
*第38回は坂口亜紀(つぐとし)氏の執筆です。
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