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あれやこれやの思い出帖

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35  古本番長やらずぶったくり
2006年9月1日(金)  坂口和澄 さかぐちわずみ
 私、暑さが苦手で、夏を「爺殺しの季節」と呼んでおります。例年にもれず今年もバテバテ。そこで次男亜紀(つぐとし)に、ちょっと交代。親父がラヴ・レターの代作で昼飯代を稼いだ(17回参照)と思えば、息子は友人の卒論やリポートの代作を請け負って、四年間に数十万円を稼ぎ、それがすべて本代と映画代、レコード代に化けたという……。売文稼業はしっかり息子に伝わったようで、困ったもんです。

 と、いうワケで、夏バテの親父に代わって息子が一時バトンタッチです。しばし、おつきあいの程を。
 さて、新規開店の古本屋のほとんどがマンガ主体の無味乾燥な物であるこの御時勢。幸いにも私の住む近隣には、数こそ少ないものの、個性的な古本屋さんが、砂漠のオアシス然と存在しています。そして、私は、それら古本屋さんで、まさに運命的といっても過言ではない、驚異的な古本との出会いを数度果たしているのです。
 お店の紹介はあとに譲って、まずは私の古本とのつきあいスタンスを。
1)読めればよい。
2)汚かろうが書き込みがあろうが、安ければ安い方がよい。
3)それでもカバーくらいはついてて欲しい。
 ――以上。
 真のコレクター、古書マニアからは抹殺されそうなアバウト態勢で、欲しいものだけ買ってます。主な購入ジャンルは西部劇、西部史関連モノ、一部海外ミステリ、映画モノ、その他ゲテ物です。
 さて、話を谷根千方向に戻すとしましょう。まずは根津の古本屋さんオヨヨ書林での奇跡の一幕を。
 話は一年程前に逆戻りします。某古書店ガイドブックで、根津に比較的新しい古書店があると知った私は、仕事の切れ目に7月の酷暑の中をフラフラと坂を下って行きました。そう、何か予感があったのです。
 その時期、私は町田、横浜、神保町で、かなり“アタリ”を引いておりました。それ相応の値段のものから、かなり格安で手に入ったものなど、ともかく古本運がツイていたのです。「インターネットで在庫検索して探しゃイイだろ!」というツッコミは野暮ですな。行き当たりばったりやら散歩がてらに、ふと立ち寄った古本屋でとんでもないブツと出っくわす喜びを知った者には、予定調和な古本探索は味気ないものなのです。

 閑話休題。到着しました「オヨヨ書林」。
 思ったより小さなお店でした。まずは入口の100円棚を。おおっ!! ドイツの西部劇作家にして冒険作家、んでもって元犯罪者のカール・マイ先生の結構珍なる邦訳本が。文庫棚へ目をやると、角川文庫の70年代の海外ミステリがチラホラ。ありました、「110番街交差点」。――'72年に映画化された、切ない黒人刑事物の原作。15年くらい前に国分寺の古本屋で購入済みでしたが、「100円だし、おれの持ってるやつと背表紙の色が違う!!」との理由で、速攻で手にとりました。
 店内に入ると、古い雑誌の付録や、かなりな量の映画本、音楽本、芸能本。絵本や幻想文学、性風俗モノなど、面白そうな品揃えで、思わず心の中で「こりゃアタリだ」とほくそ笑みましたとも。ガラスケースの中の青島幸男責任編集のバカ本「パロディ」などに目を奪われつつ、ふと、足許に見たものとは!! 以下次週。


*第35回は坂口亜紀(つぐとし)氏の執筆です。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
坂口和澄 さかぐちわずみ 不自由業
1934年台東区根岸生まれ。現在上野桜木町に在住。デザイン仕事のかたわら、中国史を研究。著書に「正史三国志群雄銘銘伝」(光人社)、「三国志群雄録」(徳間文庫)などがある。「谷根千」82号に「根岸だより」を寄稿。
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