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あれやこれやの思い出帖

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21 すすきが穂に出て顕われた
2006年5月26日(金)  坂口和澄 さかぐちわずみ
   ♪ 露は尾花と 寝たと言い 
     尾花は露と 寝ぬと言う
     あれ寝たと言い 寝ぬと言う 
     すすきが穂に出て 顕われた

   ♪ 入谷の寮の 雪おろし 
     とび立つ思い 三千歳(みちとせ)が
     つもる口舌(くぜつ)も 
     後や先 怨めしそうに 顔を見て
    「モシ、直はん」
     胸も鳴子の 風あたり

 小唄・端唄から都々逸に至るまで、これこそ声に出して読むにふさわしい日本語だ。別に歌えなくったって構やしない。小学生に英語教育を始める前に、まず日本語を教えるべし。それにはこうした名文句を覚えさせるのが手っ取り早い。日本語を優先してネ!!
 あたしゃ英語が苦手で、観光BUSと、それに乗っているおばさんたちとを見較べて、いくら何だって「観光ブス」とは酷いじゃないかと義憤に駆られたことがある。「あれはバスって発音するんだ」と教わったのは、つい二、三年のことだ。だが七十二年生きている間、英語が出来なくても不自由を感じない。日本に住んで日本語を知っているからである。
 子供たちには上述の文句を初め、いろいろ教えてやった。親が子に教えるのだから「教えてあげる」とは決して言わない。これも私が日本語を知ってるからだ。ついでに三千歳や片岡直次郎ら『天保六花撰』の話も教えた。そのせいか、二人とも「お勉強」のほうはともかく、雑学だけはある。
 思い出した。母は物知りの人を「あの人って牛の尻尾(しっぽ)ね」と言っていた。何のことか種を明かせば「モウの尻」、すなわち「物知り」なんだってさ。女の場合も親父ギャグって言えるのだろうか。思い出して今、私は悩んでいる。
   ♪ 宵にゃ横 夜中まともに 明け方は
     後ろからさす 窓の月
 を国語教科書に載せるならば、天体の運行を二十六文字で簡潔に表現したと説明すりゃいい。ただそれだけのことで別に深い意味はない……はずだ。
 寅さんの名文句
   ♪ 四谷 赤坂 麹町
     チョロチョロ流れる お茶の水 
     粋な姐ちゃん 云々
は、 江戸御府内を流れる神田川の流域を説明したといえば済むことで、地理の勉強にもなる。
 さらに一つ。
   ♪ 入れておくれよ 掻ゆくてならぬ 私一人が 蚊帳の外
は、思いやりの大切さを教え、同時に昔は蚊帳が生活必需品だったことを教える修身と社会、二つながら兼ね具えた名句である。
 皆さん、そう思いませんか。賛成者が多ければ「正しい日本語を教える会」を結成する。「立ち上げる」という変な言葉は使わない。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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坂口和澄 さかぐちわずみ 不自由業
1934年台東区根岸生まれ。現在上野桜木町に在住。デザイン仕事のかたわら、中国史を研究。著書に「正史三国志群雄銘銘伝」(光人社)、「三国志群雄録」(徳間文庫)などがある。「谷根千」82号に「根岸だより」を寄稿。
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