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くまのかたこと

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3月23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日

3月23日(月)
ビクトリア駅で待ち合わせをして瑶子さんと澄子さんとオクスフォードにバスで行く.きっかり1時間50分で付いた.ちょうどお昼。有名なパブにはいったけれど、フィッシュアンドチップスでおしゃべりをしているうち時間が3時になってしまい。私は一人でまち歩きに出かけた。お二人は仲良しのいとこで先祖伝来の積もる話があるのだ。オクスフォードは勉強のための施設だから仕方ないが、どこも訪問者を入れてくれない。みちに面して高い塀や建物が並んで威圧的である。高校の頃、ここで学んでみたいと思い、トリニティーだのベリオールだのカレッジの名前は覚えたが、夢は叶わなかった。ホテルは駅前。歩くのが大変なので、適当な中華料理を食べてまた話が止まらず。お二人の家の話やいままで体験したこと,すべて興味深い。

3月24日(火)
オクスフォードからバスに乗って、チャーチルの生まれたという貴族の館を見に行く。ここでチャーチルはアメリカ人女性にプロポーズをした。いま当主は留守なので、居住スペースも見せてくれるという。立派で陰気な一階2階より地下の当主の書斎のほうがむしろ狭くって居心地が良さそだ。庭も見渡す限り.掃除や剪定を考えるとこんな家を持ちたくはない。


3月25日(水)
リバプール駅から電車に乗る.瑶子さんのうちはシェンフィールドにある。なくなられた森嶋通夫先生が庭の広いのと、小鳥の声がするのが気に入ってここに決めたという.赤煉瓦のかわいいいえだが中は広い。いまから友だちを連れて行くというのがしょっちゅうだったから、自分の自由な時間なんてなかったわ、とおっしゃる。食堂の天井に長い紐で上げ下げする木枠の物干がある。これ便利なのよ。100年以上前のうちなので、お手洗いも昔風に紐を引っ張って流す方式。イギリス人は人生のステージによって家を買い替えるそうで、この家は退役軍人の老夫婦から買ったとか.すんでるまま中を見せてくれて、お茶も出してくれたの。ケーキの屑をこぼしたので森嶋がきれいにしたら、そのひとがいったわ。Don’t care,this house will be yours.  そしたら森嶋が That’s why I'm cleaning. て。そういうとこが彼はイギリス人と気があったのね.駅前のカフェでランチ。琥珀の肌のすごく元気な女の子のいる店。か−ド屋さん。肉屋さん。それから散歩.古い木の協会に十字軍の墓があって驚いた.

3月26日(木)
瑶子さんの家を出て車でケンブリッジへ連れて行っていただく。キングスカレッジ、はじめすごい大きな荘重なカレッジの裏はヤードといって庭になっている。全体にオクスフォードより明るく開かれた感じ。昼は広場でイタリア料理を食べる、珍しく、美味しい。カレッジの中にある嘉悦大学の持っている研修施設に今日はとめていただく。夕方水路を平底舟で行くパンティングに乗る。川岸の安いイタリアンでまたワインを飲む。イギリスについて分からないことを、在住40年の瑶子さんにきく。例えば、オックスブリッジを出ただけでは日本で東大を出たくらいの箔もつかないらしい.どこの大学を出たかより、卒業試験でどんな成績を取ったかが重視される。だいたい大学名よりどこのカレッジに所属したかで仲間意識がある。そしてこの国では大学へ行くのは苦行しても勉強したい人のみ、大学を出ていなくてもとくに差別はされない.ひとそれぞれ。

3月27日(金)
ケンブリッジを出発、いろいろ迷ってけがの功名でサフランウォールデンというきれいな田舎町に出る。駐車場に止めて食事でもしようということになった。
古い家が多くて、標識を見たらクロムウェルがこのうちを本営にしたと書いてある.キングスアームスとかいう、パブでランチ。瑶子さんは大好きなジャケットポテト。澄子さんは魚、私はラムのステーキ。ホントに古い町の社交場で、次々常連がはいってきて挨拶を交わし暖炉には火が燃え、夫婦でビールのジョッキを傾けている.向こうにちょっとすてきな小父さんが一人でいるので眺めていたら、恋人があとから合流、がっかり。それからオードリーという立派な館を見に行ったが、冬期休業中。マアいいや,豪邸にはそう興味がないし。瑶子さんと別れて列車でロンドンへ。今日は7時に恩田さんがトンカツをごちそうしてくれるという.これが日本のトンカツとは似て非なるもので、ヒレをカラッと揚げてソースまで手作りでまたまた大変美味しかった。キネ旬やスクリーンに書いていらした頃の思い出話をきく。寺山修司が航空便で送ってきたというパチンコの台が深い緑の壁にしっくりなじんでいる。

3月28日(土)
今回のイギリス旅行のメインイベント、バービカンシアターでの蜷川幸雄演出、歌舞伎でシェークスピアの「十二夜」をやるのを見に行く日。でも朝は10時の開館と同時にナショナルギャラリーにいた.最初にポートレイトギャラリーを見る。エリザベス一世の肖像が何枚もあるが、みな似ているところを見ると本当にこんな肉の薄い、青白い、酷薄なかおをしていたのであろう。テューダー王朝の王様はみな獰猛だ。近現代の人たち、ワイルド、エリオット、バージニアウルフ.ラッセルにトインビー・・・。日本人でもイギリス人をたくさん知っているし、本もよく読んでいるものだなあと改めて感心。ギャラリーの方はとにかく膨大。印象派では案外、ゴーギャンがいいと思った。それとブルームズベリーグループの絵がたくさん会って良かった。ラファエル前派である。でもロセッティーもバンジョーンズもちょっとにすぎてない?
3時より恩田さんが車でハムステッドヒースに連れて行ってくれる。ロンドンの郊外といえない町中にこんな林があるとはね。池もあって泳ぐ人もいるという。ところどころ、ここにスチブンソンがすんでましたなどと青い丸い標識がある.オーウェルのもあった.ひょっと見たらタゴールだった.びっくりした.。バービカンへ。すごくいい席.富司純子さんも寺島しのぶさんも着物姿。劇はやや長い。15分刈り込めばいい.でもシェークスピアのイギリス人がよく知るストーリー、それを歌舞伎の衣装と声と仕草で見せるのだから勇気あることだし、当地の客にもよくわかる。早変わりに嘆声が上がる。英語をちょっと入れたり、ハープシコードの伴奏でイギリス古典曲を少年が歌ったり.工夫がある。菊之助は丁寧に演じていて好感が持て、なにより亀治郎のおどけ女中役が卓抜だった。夜、ロンドン暮らしの長い長い内田さんにごちそうになリお友達と建築の話をして楽しかった。

3月29日(日)
恩田さんが誘ってくれて、精神科の医者エレーナとロンドン近郊の村や丘、林を歩く。自信ないから断ろうかな、というと、澄子さんはめったにないチャンスだからいってらっしゃいよ.歩くったって、休憩もあれば、ゆっくり景色を見ながら歩くんでしょ、と励ますので行ってみたがとんでもない.二人は重装備、細かい地図をぬれないようにビニール袋にいれ、すたすた歩くその早いこと.結局10時に歩き始め1時にランチまで一回も休まない。それを見失なわないよう必死で付いていく。
教会の墓地で水仙を眺めながらポテトサラダとキッシュで昼食。恩田さんが残り物でいい?と二人分作ってくれた。午後は林の中ワイルドガーリックを取るというのでなんかと思ったら、行者ニンニクなり.またの名をアイヌネギ。だいすき。東北ではよく見かけるが、買うとすごく高い。どさりとって、また歩く。結局12マイル。20キロ.最後音を上げて、パブでビールを飲んでまっていたら迎えにきてくれた。帰って5時.ベッドで1時間寝て、サドラーズウェルスへ。フラメンコのフェスティバル.それはもう素晴らしかった。

森まゆみ

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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