3月1日（日）
台東区の景観シンポで基調講演。昨日会った西研のOB東海大の小沢朝江さん、旦那さんは日本人だがニックネームをジェームスと言って、一緒にイギリスにナショナルトラストの調査に行ったことがあった。旦那と親しいと奥さんも親しく感じられて馴れ馴れしくしてしまい反省。皇室建築のいい本を出されたばかり。

3月2日（月）
校正、家を出ず、土鍋でご飯を炊き、玉子とみそ汁で生き延びる。この前グループサウンズの番組で『古い泉よ、お前にボクハー』という歌なぜか頭について一日壊れたレコードよろしく鳴っている。鳩山総務大臣、かんぽの宿に続き，東京中央郵便局やってくれるじゃないのと思う。私の嫌いな4世議員ではあるが。


3月3日（火）
校正。頭いたく、耳鳴りひどく、ハカがいかない。目も限界で気晴らしに句会へ。楽しいんだけどついつい遊んで午前様。坂崎さんが、昨今の不況を『いやあ、みんなの方がいよいよわれわれに近づいてきましたなあ』とうれしそうなので、「坂崎さんが貧乏といってもそれは家一軒分くらい飲んじゃっただけでしょ」と混ぜ返す。でも貯金も目減りするし、円も紙クヅになりそうだからその前に飲んじゃった方がいい。

3月4日（水）。
一日校正。でも昨日の句会に気を取られ、つい句を作ってしまう。量産体制に入り、まるでポップコーンのように出て来るので、これは趣味としては脳髄過労症を進めるだけでよくないかも。大脳皮質だけで生きてはいけません、と医者にいわれたのに。釣りの方がいいか。頭を空っぽにするには。気晴らしに大学生の就職相談に乗る。若い人の以来は断らないことにしているので。

3月5日（木）
女三人のシベリア鉄道、校了。目が悪くて資料が思うように読めないし、記憶力が悪くて読んだはしから忘れてしまうし、つらかった。
編集者のみのりさん、これ以上増やせません、動かせませんと若いのに断固としたもの。
よしあしは後の岸の人にとへわれは颶風に乗りて遊べり　与謝野晶子の歌の心境。それにしても晶子には何時もこちらの気持ちにぴったりな歌があるものだなあ。
サア、遊びにいこう。今日は近所の市川さんと蛇の目寿司。父の世代なのになんて若いんだ。夏に原爆の図の展覧会をやるので知り合ったが誠之の大先輩、しぶい結城を着てらしていつ誉めようか、まよった。これは友人のおばあちゃんの着物で男物を仕立て直して着てたらしいの。それを男物に仕立て直した。つまり男、女。男ものともとにもどったわけですね。おくさん、一本つけてください。親方、つぎはいかとたこ。そんなさらりとした注文ができるまでにどのくらい修業がいるのかな。　

3月6日（金）
めっちゃ忙しい日。１時、２時、３時と三つ打ち合わせあり。７時に西麻布アルポルトでお店の25周年記念メニュー。
なじみ客の谷井さんに誘って頂いたがパスタ６品、すこしづつ、すばらしかった。といっても西麻布なんてめったに来ない。夜中、ワーカホリックでまたしごと。

3月7日（土）
夕方、国立演芸場に行こうと家を出たら白山の駅できれいな女の人が『もしかしてモリさんですか？私図書館で借りて読んだ『かしこ一葉』が好きで、ずっと本屋さんで探しているのに見つからず、何度も図書館で借りてはいつも返すのが送れちゃうんですよ』とのこと。うれしくてつい、まだ家にあると思うから知ってる本屋さんまで届けましょうなんていってしまった。もう品切れなんです。『そう、あんな貴い本が。くだらない本はいっぱい本屋にあるのにね」。ほんとにそうおっしゃったんで、まいあがってしまった。今日、入船亭扇辰の鰍沢、絶品。

3月8日（日）
高校のクラス会。120名中50人以上集まる。岩田さん、都電二十番線の中で彼女に物理を一朝づけしてもらい17点取った。大橋さん、あなたの作ったベトナム反戦フォークまだ覚えている。及川さん、バルトーク引きの彼女にベッヒシュタインのピアノを世話してもらった。雪沢さん、昼休みにあなたのヴァイオリンの伴奏をよくしたね。北畠さん、学校をサボって椿山荘で歌舞伎の台本を書いたりした。遠藤さん、あなたの横浜市大のオケに私ソリストで言って良く練習の合間に鎌倉歩いたね、みんなその人らしく歳を重ねてうれしい。とはいえ自分も含めて相当に過剰で不思議な人の多い学校だった。

森まゆみ