石畳の宿 愛媛県内子
愛媛県内子と言えばわが町作りの3人の師匠のひとり、岡田文淑さんがいてたまにたずねる。岡田さんは18歳で内子の町役場に入り、
労働組合の活動をした後、ここの町並みを守ろうと思い立った。それで住民一人一人を他ずね,説得し、今で国の重要伝統的建造物群保存地区にせんていされるにいたった。その努力はすざまじいものだが、岡田さんはひょうひょうと生きているしくろうばなしをしない。あるとき宮本常一さんが着て,岡田さんは町並み保存のそうだんをしたそうだ。そしたら宮本さんはこともなげにいった。こんなに森を荒らしている住民に無理じゃろ、と。岡田さんはさらりと言うけど、凄い話だと思う。
それでも町並みを保存した岡田さんはこんどはいち早く村並み保存を訴えた。それはもう20年もまえのこと。いまの文化的景観なんて事の萌芽はここにある。
で建築家吉田桂二さんといっしょに集落に石畳の宿をつくりあげた。お金は町が出し、運営は近くの農家の主婦たち。日本の伝統的建築で、広々した一階にはいろりがあり,そこで朝ご飯を食べた。ここのご飯は銀シャリという言葉がぴったり。ひかってる。生卵は割るとプルンとりったいだ。今朝生まれた玉子ですか、ときくと、うれしそうにわらって、この鶏は今朝初めて生んだんです、というからおどろいた。初産てわけね。そのほか野菜のおひたしや,煮物、漬け物、すべて研究を重ねておいしいことこのうえない。最近グリーンツーリズムと称して,やたらまずい食事を大量に出す自治体経営の店が多いが、すこしこの宿を学んだらいい。
とはいえ、ある有名な建築家の夫人がここを予約したものの、来てからこんな寂しいところへは泊まれないわ,と帰って行ったという。心づくしの料理を準備していたむらの奥さんたちはがっかりしたとか、でも損をしたのは,その夫人だろう,こんなおいしいご飯をのがすなんて。
森まゆみ
2007年5月21日(月曜日)公開
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