愛媛県庁のシンポジウムに招かれたとき、そういう仕事は往々にして県庁さしまわしの黒塗りの車であちこちへひっぱり回され、堅苦しい挨拶やら名刺交換で明け暮れ疲れ果てるものだから、宿だけは他の先生方と違う静かな宿に一人で泊めてくれと頼んだ。

天皇の宿「ふなや」などに近いが、ここも小さくて高級な宿で、民芸風の部屋の趣味もいい。もちろん風呂も朝食もすばらしかった。ところが案の定、大洲や五十崎を黒塗りで案内され、夜は一流料亭で女性に酒をつがれる、ということになり、川吉別荘でゆっくり夕食をとれなかったのが悔やまれる。今度は仕事ではなく、友だちと行きたい。もちろん道後温泉本館へも歩いてすぐ。

森まゆみ
2003年9月12日(金曜日)公開