産経新聞 HPより
http://www.sankei.co.jp/edit/kenban/tokyo/
またひとつ 明治は遠く…
根津の「茨城県会館」 売却、取り壊しへ
関東大震災、戦災にも耐えた和風建築
文京区根津にある明治後期に建てられた屋敷で、井上ひさしの小説「東京セブンローズ」にも描かれた「茨城県会館」が来月にも、売却されることになった。建物の保存運動も巻き起こっているが、約五百坪というまとまった広さの敷地に建っており、売却後は取り壊される可能性が高い。関東大震災、戦災でも無事だった純和風の建造物で専門家も価値を認めるが、時代の流れには勝てそうもなく、惜しむ声が上がっている。(櫛田寿宏)
《活かす会「最後まで保存に努力」》
建物は、東海道線の丹那トンネルの工事を請け負うなどして財を成した建設業の田嶋浅次郎氏が建てた。約五百坪の敷地内に明治四十三年(一九一〇年)にレンガ蔵、翌年に本館、大正五年に東棟が完成した。純和風で、座敷には折上げ格天井があり格式を備えている。華美なつくりを避けているが、細部に明治、大正期の職人の見事な技のさえをみることができる。
昭和十八年ごろ画商の手に渡り、料亭として使われ、調理場などが増築された。その後新潟県に譲渡され、昭和四十七年に茨城県が取得。職員の東京出張の際の宿泊所として使われてきた。
しかし、交通機関の発達で県職員の泊まりの出張は減少。古い建物で使いづらいうえ、年間の維持管理費もかさむため今年三月で閉館した。茨城県は文京区に土地・建物の購入を提案したが、厳しい財政状況下で実現せず、県は売却する方針を固めた。
すでに今年度の歳入予算に売却による六億八千万円を見込んでおり、十一月上旬にも県報に公示する。
屋敷が売却されればマンションなどを建設するため取り壊される可能性が高い。古い家並みが残る根津でも明治期の屋敷は珍しいため、地元住民や建築家らが「根津・茨城県会館(旧田嶋邸)を活かす会」を結成。署名活動をしたり、見学会を開くなどしてきた。旅館や高齢者が生活するグループホームとして活用することを提案してきたが、受け入れられていない。
建築家で芝浦工大教授の三井所清典さんは「昭和十年を境に、伝統を受け継いだ立派な屋敷は建てられなくなったので、非常に貴重な建物だ。借り物の文化である明治期の洋館の保存に対しては理解が得やすいのに、民族の文化の結晶である和館を大事にしないのはおかしい」といきどおる。
活かす会メンバーで東京芸大大学院非常勤助手の中村文美さんは「公官庁や歴史的人物ゆかりの建物ではないが、間違いなく価値がある。文化財が失われるのは正視できない。最後の最後まで運動を続ける」と話している。