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古書ほうろうの 2001年4月の一冊
「エロス」 「マイナス・ゼロ」 広瀬正 (集英社文庫)
「エロス」 「マイナス・ゼロ」  広瀬正 (集英社文庫)

広瀬正は1924年に東京・銀座で生まれ、72年に亡くなりました。作家になる前はジャズのバンド・リーダーをしていたそうです。日本のSFの黎明紀に20編あまりの短編を書くも認められず、その後しばらくクラシック・カーのモデル製作などをして過ごしますが、70年、第1長篇『マイナス・ゼロ』が出版されたことで、ようやく作家としての地位を確立します。そして、それからほんのわずかな期間に、いく つかの素晴らしい小説を書き、逝ってしまいました。

なかでも『マイナス・ゼロ』と『エロス』は、SF的な分類こそ違いますが(前者はタイムトラベルもの、後者はパラレル・ヒストリー)、 ともに広瀬さんが少年期を過ごした戦前の東京へのノスタルジーに満ちあふれていて(どちらの作品も「少年時代の自分におくる」とされています)、たとえば昔の銀座の街並など、写真や資料などからはなかなか伝わってこない街の空気が、肌触り、匂いといったものまで感じられます。

『エロス』は、主要な舞台のひとつが谷根千地域のお隣りにあたる駒込曙町(現在の本駒込一丁目あたり)で、主人公たちは神田橋行きの市電に乗って初音町や春日町まで行き、ときには何度か乗り換え、根津八重垣町まで出掛けたりもします。最初に読んだときには、この地域に縁もゆかりもなかったせいで特になんとも思わなかった部分も、地形や距離感などがわかっている今読み返すと、頭の中に自分なりの風景が浮かんできて、新鮮でした。特に『谷根千』の読者の方々にお薦めします。

2001年4月の本 広瀬正 「マイナス・ゼロ」

また、『マイナス・ゼロ』も、SFだとかミステリだとか文学だとかといったものを超越した傑作です(日本人の頭と心にタイムマシンを普及させた作品として『ドラえもん』とともに後世まで残るでしょう)。合せて読んでいただければと思います。

広瀬正は小説好きならその名を知らぬ人などいないでしょうから、あえてここで紹介するまでもないとも思いましたが、少しでもたくさんの人に読んでもらいたいと常々思っていることもあり(わたくしごとですが『マイナス・ゼロ』は人にプレゼントした本ベストワンです)、取りあげました。 2冊とも現在新刊で手に入ります。値段は『エロス』619円、『マイナス・ゼロ』648円です。(宮地)

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