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森まゆみの本

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谷中スケッチブック - 心やさしい都市空間
1994年3月18日(金)発行 Amazon.co.jp

谷中スケッチブック - 心やさしい都市空間 森まゆみ
660円 ちくま文庫(筑摩書房) 1994.3.24発行
ISBN: 4480028552

「谷中スケッチブック」を書いてから九年たった。あのころ長男が生まれたばかりで、私は彼をしょって暑い夏に町を取材していた。
いま記録しなければなくなってしまう。どうにかこの古い町の美しさを、やさしさを残せないだろうか、ということが二十代の私をやみくもにかりたてていた。「谷中」には鉄道の駅もない。地下鉄の駅もない。バス停しかない。当時、谷中といっても知る人は少なかった。田中正造の谷中村とさえ混同された。
そして発行すると待ち歩きの格好のガイドとしても重宝され、幸い版を重ねた。一人でがんばっているエルコの横山秀男さんがこの本を作って下さったのは、私の初志にふさわしいもので感謝している。しかし数年来、絶版となっており、読者の求めも多く、今回文庫という軽やかな形になるのは本当にうれしい。谷中の町を歩くときにはぜひポケットに入れてかわいがってやってください。
あれからいろんなことがあった。谷中は下町ブームとやらで少し有名な土地になり、見学の人も増えた。ずいぶん多くの建物が壊され、バブルで土地が上がり、また下がった。古美術商やギャラリーも増えた。この本に書いてもなくなった建物もあるし、いなくなった人もいる。今読むと生硬な文体でもある。しかしそれらについてあまりかえることはしなかった。なぜならこの本は私にとっては二十代の、町にとっては一九八五年の紙碑だから....
小さなもの、エラくないもの、古いもの、おろかなもの、匂いや手ざわりのあるもの、そんなものへの愛着がこの本を書かせた。それは素朴すぎる感情だと、その後思い知らされたけれど、今の私にはこんな本は書けないと思う。
谷中住人でもある小沢信男さんにすてきな解説を、敬愛する安野光雅さんに美しい装幀を恵まれた。本当にありがとうございました。
一九九三年十二月十日 森まゆみ

<文庫版あとがきより>


目次
1 江戸のある町
2 日暮しの里
3 坂と路地と鉢植えの町
4 谷中墓地
5 朝倉彫塑館
6 上野桜木町まで
7 よみせ通りと谷中銀座
8 大名時計博物館

あとがき
文庫版あとがき
解説 ふるさと周遊紀行 小沢信男
主要参考文献
谷中の寺々
索引

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