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森まゆみの本

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かしこ一葉 「通俗書簡文」を読む
1996年11月25日(月)発行 Amazon.co.jp

かしこ一葉 「通俗書簡文」を読む 2004年2月追記 樋口一葉の手紙教室として、ちくま文庫に入りました。

森まゆみ 著
本体価格 \2,300
筑摩書房 1996.11.25発行 ISBN4-480-81410-8 C0095

手がみの文はさのみことヾ敷ことゑらびせんよりたれにもわきやすくすなほなる詞もて思ふこゝろをさながらいひあらはさるゝやう書ならひたらば其ほかにことなかるべしこと葉の自由を得たらましかばいはんとおもふは我が心なればおのづからのたくみはもとめずしてとりいでらるべくやされば此文たゞ初まなびが友にと斗ゑらびて夕月よ」たどゝ敷みちのしるべにもなどいふにはあらずかし

夏子しるす

人から手紙を貰うのはうれしい。夫の転勤についていったある友は、友達もまだできない地方の町から「郵便受けにあなたの手紙を見つけると、砂漠でダイヤモンドを拾ったような気がします」と書いてきた。そういわれると張り合いもあって、せっせと手紙を書こうと思う。
こうした気安い幼なじみへの手紙や、他のことは放ってもいまわが心を伝えたい、と筆が走る恋文はいざしらず、お礼の手紙、頼み事の手紙、断りの手紙などは気が重く、つい一日のばしにしてしまいがちだ。そのうち時を逸し、筆無精とか礼儀をわきまえぬ人というレッテルが張られてしまうのだから、手紙を早めにきちんと書くことは大切である。頂きものをしたその日折り返し、電話でお礼をいう人もあるが、それも少し余韻がない。せっかく静かに差し出されたものには、心深い手紙で答えたい。電話をかけても相手がいるとは限らないし、もしかして忙しい仕事の最中かもしれないから。
これから紹介する「通俗書簡文」は、明治二十九年十一月二十三日、満二十四歳で亡くなった一葉樋口なつ子(夏子、奈津子とも)が書いた手紙の書き方の実用書である。亡くなる年の五月に博文館より発行、一葉の生前に本の形で刊行された唯一のものである。
肺結核で死期の近い一葉には、このような実用書ではなく、小説など本来の仕事をもっとさせてあげたかった気もするが、さすがに「たけくらべ」「にごりえ」の作者一葉ならではの美しい文章が並び、また小説家らしい想像力の駆使されたユニークなものである。
以下、いままであまり注目されず、全集の片隅に入れられても読者の少なかった本書を私なりに読み解き、明治時代の女性の手紙の書き方に学んでみたいと思う。
(序より)

目次

新年の部
年始の文◎同じ返事 / としの始友におくる◎同かへし / 新年会断りの文◎同返事 / 歌留多会のあした遺失物をかへしやる文◎同返事 / 田舎の祖母に寒中見舞の文◎祖母に代わりて従妹より返事

春の部
余寒見舞の文◎同じ返事 / 初午に人を招く文◎同じ返事 / 梅見に誘ふ文◎同じ返事 / 初雛祝ひの文◎同じ返事 /三月ばかり初奉公の友に◎同じ返事 / 小学校の卒業を祝ふ文◎同じ返事 / 春雨ふる日友に◎同じ返事 / 花見誘ひの文◎同じ返事 /汐干狩に誘ふ文◎同じ返事 / 花の頃都にある娘に◎同じ返事娘より

夏の部
花菖蒲見に誘ふ文◎同じ返事 / 蚕豆を人におくる◎同じ返事 / 新茶を人におくる文◎同じ返事 / 人の新盆に◎同じ返事 / 暑中見舞いの文◎同じ返事 / 朝顔見に誘ふ文◎同じ返事 / 雷鳴はげしかりし後友におくる◎同じ返事 / 避暑に行つる人へ◎同じ返事

秋の部
残暑見舞いの文◎同じ返事 / 草花に添へて人のもとに◎同じ返事 / 野分見舞の文◎同じ返事 / 月見に人をまねく文◎同じ返事 / 人の家に菊植たりけるを聞きて◎同じ返事 / 紅葉見に誘ふ文◎同じ返事

冬の部
かりたる傘を時雨のゝちかへす文◎同じ返事 / 冬のはじめ仕立物の手伝ひをたのむ文◎同じ返事 /初霜ふりたる日老人のもとに◎同じ返事 / 天長節に人を招く文◎同じ返事 / 徴兵に出でたる日との親に◎同じ返事 / 雪の日人のもとに◎同じ返事/ 歳暮の文◎同じ返事

雑の部
祝いの文
婚礼祝ひの文◎同返事 / 出産祝ひの文◎同じ返事 / 開業祝ひの文◎同じ返事 / 新築落成をいはふ文◎同じ返事

依頼の文
媒酌たのみの文◎同じ返事 / 家を買はんとて人にたのむ文◎同じ返事 / 奉公人の代わりを求むる文◎同じ返事/ 猫の子をもらひにやる文◎同じ返事 / 娘の躾を人にたのむ文◎同じ返事 / 書物の借用たのみの文◎同じ返事 / 留守中たのみの文◎同じ返事/ 我が家を移せしを人につぐる文◎同じ返事

忠告の文
雇人の逃亡を人に告ぐる文◎同じ返事 / 愛犬の行衛なく成しを友につぐる文◎同じ返事 /家を売らんといふ人の老婢がもとに◎同じ返事 / 友の驕奢をいさむる文 / 離縁を乞はんといふ人に◎同じ返事 /友の不養生をいさむる文◎同じ返事 / 事ありて仲絶えたる友のもとに◎同じ返事

あやまりの文
留守中来たりし人のもとに◎同じ返事 / 注文物の日限おくるゝを良人に代りて謝する文◎同じ返事 / 人の家の盆栽を子のそこなひつるに◎同じ返事

お礼の文
雇人の周旋を受けし人のもとに◎同じ返事 / 饗応にあづかりし後人のもとに◎同じ返事

招きの文
法事に人を招く文◎同じ返事

お見舞の文
試験に落第せし人のもとに◎同じ返事 / 不躾に成し人をなぐさむる文◎同じ返事 /愛子をうしなひし人のもとに◎同じ返事 / 火事見舞の文◎同じ返事 / 負傷見舞の文◎同じ返事 / 地震見舞の文◎同じ返事 /盗難見舞の文◎同じ返事 / 死去を弔ふ文◎同じ返事

唯いさゝか
通俗書簡文の構成 / 半井桃水への手紙 / 日暮らし養福寺への道 - あとがきにかえて / 参考文献

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焼け跡やみいち派読者2004年1月28日(水) 23時02分
現在NHK教育テレビで放映中の「こんにちは、一葉さん」は毎週再放送分まで受講せて戴いております。とても楽しいです。一葉には高等学校時代に感心をもちました。 昨年7月にふとした切っ掛けで、森先生渾身の御著書「かしこ一葉」に邂逅し、はんと...
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