森まゆみ著
本体価格 \1900
晶文社 1994.3.5発行 ISBN 4794961596
いま住んでいる家も、けっして広くない。
本棚までは二歩である、坐っているコタツからでも、玄関からでも。だいたい玄関などというものはなくて、半畳の土間があって、ふすまを開けるといきなり六畳の居間兼仕事場なのだ。そこで子どもたちが食事をとり、わめいておるのだからして、仕事をしながら私はもう頭がグチャグチャになる。
そういうときは散歩にいこう。本を一冊、ポケットに入れて・・・。
本を読むのにもってこいの場所があちこちにある町なのだ。桜満開の谷中墓地はどう。朽葉散る根津神社ってのもいいよ。玉林寺の墓地も人が少なくて石仏と差し向かいで本が読める。本郷の三四郎池のほとりも腰を落ちつける手頃ない石があるし・・・。
もろに陽射しを浴びないように木陰をえらんで、ぐずぐずと半日、本を読んでいる。
休みの日でなくても、本を読んでいるときが、私の休日なのである。
<はじめにより>
目次
読書という休日 − はじめに
1. 大好きな作家
教養について / 樋口一葉−なにごとも語るとなしに・・・ / 幸田露伴−露一滴 / 幸田文−五感の変革 / 陸沈の思想−幸田文、志村ふくみ、岡部伊都子 / 水性の文学
2. 本をポケットに入れて
黄色い丸椅子 / あさししんぶん、しおしがり / 上野の桜 / 都市放浪−長谷川利行の宇宙 / ミカン山の葬式 /東京グラフィティ / 海に生きる町 / カンザスの青い空 / 掃苔という風流 / 古書店鶉屋主人
3. 世界へ通ずる道
初めの一冊 / 世界へ通ずる道 / 塔がある家 / ケストナーの贈物 / 干草の寝床 / 生が輝くために /生きのびたアンネ・フランク / 岡倉天心の恋人 / 白山南天堂付近 / 五千二十通の手紙 / 空に憑かれた男たち /青春ドキュメント / ニッポン看護婦誕生史 / リリアン・ヘルマンの素顔 / 豊かなる孤独
4. メディア・レッスン
書物の愛しかた / なぜ本は一極集中するか / 初めての書評委員会 / 書評を楽しくするには / 待ちどおしい雑誌 /「青鞜」再発見 / 本を売る側の意見 / 活字は熱い / もう一つのメディア
5. 生きる知恵、暮らしの糧
縫うことのよろこび / 聞き書き・一九五の仕事 / 水のように話す / 「車に気を付けてね」 / 万古不易の問い /緑陰に憩う / 虫捕り指南 / 十五夜に浜で・・・ / コメ問題Q&A / からだによい食事 / パパの料理 /チカラビトの文化史 / あたたかな道具 / 「清貧」の連想 / 夫婦の年季
5. 女をめぐる諸相
主婦の読書 / 風穴を開ける力 / 紡がれた言葉 / 挫折を直視する勇気 / 性と法の貧しさ / 「婚」のかたち /夫と妻の出納簿 / 卵が尽きるとき / ジーパンで闊歩する気分 / 少女からの旅立ち / 女の夜更かし / 別れること、一人で生きること
本棚の引越し−おわりに
あとがき
書名索引
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