森まゆみ著
本体価格 \700
新赤版 No.715 岩波新書 2001.2.20発行 ISBN 4004307155
樋口一葉にめぐりあったのは中学一年のとき。角川文庫に「一葉青春日記」と「一葉恋愛日記」が入っていて夢中になって読んだ。
この紫式部以来の天才といわれる女性が、わが住む町のすぐ近く、本郷に住んでいたのは大きなめぐりあわせであった。私は半井桃水の住んだ西片町の誠之小学校に通い、丸山福山町に友だちがいて、菊坂辺でも遊んでいた。百年前に一葉が語る土地や起伏や橋を私はまざまざと感じ取ることができた。小説の方はかなりむずかしかったが、「にごりえ」「たけくらべ」「十三夜」「おおつごもり」と読みついだ。
一九八四年に地域雑誌「谷中・根津・千駄木」をはじめ、町に生きた文人として一葉を再び研究的に読むことになり、本郷法真寺の一葉忌にほぼ毎年参加し、一九九〇年、三十三号では一様特集を組んだ。おなじころ、私は早稲田穴八神社の古書市で古い赤い筑摩書房版の全集を求め、読めば読むほど一葉が他人とは思えなくなった。
<あとがきより>
目次
1. 樋口一葉
− ささやかなる天地 −
東京の人 / 甲斐国中荻原村 / 桜木の宿 / 吉川学校 / 青梅学校 / 下谷時代 / 荻の舎 / 平民三人組 / 田辺花圃 /谷中町の田中みの子 / 神田住い / 芝西応寺町六十番地 / 菊坂町七十番地 / 平河町二丁目 / 万世橋 / 菊坂町六十九番地 /三崎町松涛軒 / 竜泉寺町三百六十八番地 / 元すり横丁 / 真砂町三十二番地 久佐賀義孝 / 上野桜木町 丸茂病院 /丸山福山町四番地 / 日暮らしのけむり
2. 明治の東京歳時記
元旦 / 薮入り / 火事 / 初雪 / 寒中見舞い / 文明開化 / 風邪 / 梅が香 / 発会 / 頭痛 / キリスト教 /ひなまつり / 梅見のはしご / 本妙寺の種痘 / 上野の図書館 / 伊勢屋がもとに走る / 墨堤の桜 / 角海老楼の葬儀 /春の雨 / 小石川植物園 / わか竹 / せみおもて / 緋鯉と金魚 / バラとマグノリア / 人力車 / 郡司大尉と福島中佐 /仕立物 / 茄子苗と梅 / 日枝の祭礼 / 化粧と髪型 / 日暮らしの里 / 原稿一枚三十銭 / 暑気あたり / 盆礼 / 竜泉寺の家さがし/ 土用の鰻 / 夕涼み / 浴衣 / 小説気違い / 酒 / 谷中の蛍 / 蓮見 / 風呂 / 蚊遣香 / 夏祭り / 西洋傘 / 虫聞き/姉の出産 / 中秋の名月 / 彼岸の墓参り / 上野ステーション / 野分 / なまけぐせ / ぶどうとお芋 / 待合 / お茶の水橋 /なども木荻の・・・ / 地震 / 紙と筆 / 菊の鉢 / 大根 / 酉の市 / 恋の手紙 / 日清戦争 / 赤穂浪士と芝居 /鮭一尾到来 / 大つごもり
3. 一葉をめぐる人びと
その後の半井桃水 / 平田禿木 / 星野天知 / 馬場孤蝶 / 戸川秋骨 / 上田敏 / 島崎藤村 / 川上眉山 / 幸田露伴 /森鴎外と三木竹二 / 斉藤緑雨
あとがき
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