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古書ほうろうの 2002年02月の一冊
「けったいな連れ合い」 高橋順子著
「けったいな連れ合い」 高橋順子著
(PHP)ほうろう売価¥850

 本書は文京区在住の詩人高橋順子さんの3冊めのエッセイ集、タイトルの『けった いな連れ合い』とは夫で小説家の車谷長吉氏(以前このコーナーで氏の小説『鹽壷の 匙』を紹介しています)のことだそうで、表紙装画は郵便切手風おふたりの似顔絵に 朝顔の消印、帯にはこうあります。

 晩い結婚のしあわせ/五十歳近くなって結婚した相手は折り紙つきの<畸人伝中の人>であった。/直木賞作家車谷長吉氏と詩人高橋順子さんとの変てこな生活。  四十九歳のとき、四十八歳の男と残りもの同士の結婚をして、丸七年が経った。結婚した当座は、二人とも初婚だったので、周囲の人に驚かれたり、からかわれたり、危ぶまれたりした。二十代のやわらかい粘土のような二人ではなく、ひびの入った茶碗のような私どもであった。「割れ鍋に綴じ蓋」というが、茶碗同士合わせものになれるのか。しかしながらいっしょに食事をすることに喜びを感ずる私どもは茶碗であった。

 30年一人暮しをしてきた男と女がひとつ屋根の下に暮すこと、女は詩人、そして女に言わせると「折り紙付きどころかのし紙付きの変わり者」である私小説作家の男。

 ささいなことを巡る日々の応酬、互いに侵食し、されながらも歩み寄り統合をみる、あるいは相容れない...「けったいな連れ合い」とのなにげない日々の歓びややるせなさが語られている1章にはじまり旅や交友関係、仕事、結婚前の生活、詩について、また俳句について、夫婦二人だけの句会(お住いであった千駄木の千をとって「駄木句会」)の紙上採録あり、そして終章には、連れ合いの強迫神経症の発病、という実生活の危機に材を得て、著者が「書かずにいられなくて書いた」と言う詩集『時の雨』を原作としたラジオドラマ用シナリオ(NHKラジオ「FMシアター」で99年に放送)が収録されていて、谷根千界隈は文京区千駄木を結婚生活の地とした夫婦の日常が語られる折々に、その背景としてちらりとのぞきます。

 例えば暮れの風景、年越しの買い出しにお二人が連れ立って出かけるのが、田端銀座、谷中銀座、こんにゃくえんまあたり、商店街の活気ある様子が伝わるし、大晦日は根津神社裏門坂のそば屋で天ぷらそばを食べて年越しとした、というのもいかにもこの界隈らしい。  また、誕生日の祝いに無頓着な連れ合いに抗議して、一週間後やっと埋め合わせに御馳走してくれたのが根津の「はん亭」の串カツだった、というのもなんだかいい話しです。「御馳走と言えば、ともかくはん亭」自分にも思い当たるこの感覚、お二人のやりとりを想像するとゆかいな気持ちになります。

 ところで、本書は各章のはじまりにそれぞれ1篇の詩があります。「道づれのある 旅」と題した章の詩はこんなふうです。

 クローバーの原っぱで  クローバーの原っぱで/風に吹かれていてもいい/それが楽しいことだったら  空が茜色になったら/お酒を呑んでもいい/それが楽しいことだったら  恋人を五人つくってもいい/それが楽しいことだったら  猫に生まれ変わってもいい/それが楽しいことだったら  心をいれかえてもいい/それが楽しいことだったら

 実は私、高橋順子さんの著作を手にしたのは本書が初めてでした。今はこの1册をきっかけに少しずつ源流を遡っていくようなかっこうで、まずは詩集『時の雨』から読み始めているところ、引き込まれるようにして読んでいます。本書『けったいな連れ合い』のあとがきの中で著者は「世間的にいい人であるようにしつけられてきた私の中にもなにか野太くて野蛮なものがあるのだろう」というようなことを言っています。高橋さんの詩やエッセイに私が見ているもの、惹かれるものとは、そういうものなのかもしれません。このまましばらく読み続けようと思います。

 著者略歴から主な作品をあげると詩集『幸福な葉っぱ』、『普通の女』、『高橋順子詩集成』(以上、書肆山田)、『川から来た人』(ふらんす堂)、現代詩文庫163『高橋順子詩集』(思潮社)、エッセイ集『博打好き』、評論『連句のたのしみ』(以上、新潮社)など。  現在、ほうろう詩の棚に、今回取り上げたエッセイ集『けったいな連れ合い』(PHP)¥850と『博奕好き』(新潮社)¥1000があります。残念ながら詩集の在庫は今のところありませんが、新刊の書店で入手可能のようです。

(神原)
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