"東京の地方"叢書2―谷中五重塔事典 | |
著者: | 編集/江戸のある町・上野谷根千研究会 |
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発売日: | 2007年7月6日(金) |
価格: | 525円 在庫なし |
かつて、谷中に五重塔がありました。
塔の近くには幸田露伴、北原白秋、田村俊子、朝倉文夫なども住み、日夜、塔を仰ぎみて暮す中から生まれた一つが、傑作「五重塔」(幸田露伴)― のっそり十兵衛の物語 ―です。
塔は「谷中自慢」の最たるものでした。団子坂上の住人は「うちの町は谷中と上野と二つも塔が見えるのが自慢」だったそうです。永井荷風も「日和下駄」の中で、鴎外の観潮楼から谷中五重塔を眺めたことを記しています。
ところが三十二年七月六日早朝、放火心中でこの塔があっという間に炎上、焼失してしまいました。
不倫の恋の清算に、五重塔を用いるとは何と心ない事だ、と町の人々は怒りました。
いまは児童公園の片隅に礎石のみが残り、その上に桜が枝を伸ばし、ときおり。散歩者が史跡版を読んでいるだけです。
(「はじめに」より)