出版社: | 岩波新書(858) |
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ISBN-10: | 4004308585 |
ISBN-13: | 978-4004308584 |
発売日: | 2003年10月21日(火) |
著者: | 森まゆみ |
価格: | 780円 |
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...(略) 一方、東京に財力と文化が集中したために、その表現としてすぐれた建造物も多く建ったといえよう。また暮らしの中ではぐくまれたかけがえのない町並、道、風景もたくさんある。
しかし残念ながら、近代以降の震災・戦災という二度の災厄のみならず、ことに戦後、経済の圧力は、そうした歴史的に継承すべきもの、原風景となるなつかしいもの、高い質をもったものを簡単に一掃してきた。私の記憶するだけでも、一九六四年の東京オリンピックのために、日本橋を象徴とする橋や川の上に高速道路がかけられ、川面は暗く見えなくなった。道が拡幅され、建物は高層化され、多くの路地や木造住宅が壊された。新幹線が開通し、佃大橋がかけられて渡し舟は廃止された。便利にはなったが、町の表情や陰影、人間らしいゆとりは失われた。
こうしたことを見るに忍びず、一九八四年、私は仲間と地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を発刊した。この地域は東京の中でも、震災、戦災二度の大災害をくぐりぬけ古い建物が多く残っていた。それらが一つ一つ壊されていく中で、せめて記録だけでもしよう、記録を通じて、もしかすると残したいという持ち主が出てくるのではないか、と思ってのことであった。ふつうの人びとの聞き書きをつづけながら、さまざまな建物の保存にかかわってきた。
建物全体が保存できた例もあった。一部が残された例も、建具やステンドグラス、家具や文書だけすくえた例も、お話や記録だけ残した例もある。
(略)
(「はじめに」より)
あとがき
東京遺産関連略年表
参考文献
建物・町並に関する文化財について(東京23区歴史的建造物一覧/保存関連団体)
本書に登場する東京遺産案内