続・おいしい店みつけた/中濱潤子

第1回  「中華料理 ひろ武」  (弥生坂)

 その日のお昼は、目当てのBが臨時休業、第2候補のHがお盆休みと不運が重なった。気分は何としても中華という日であった。あてもなく弥生坂を上がると見慣れぬ店を発見。炒飯、お粥、定食が2種の看板に誘われ「ひろ武」の扉を開けた。

 ほどなく注文した炒飯が登場。そのボリュームに目が釘付けになるとともに、香港のクサヤと呼ばれるハムユイ(発酵させた干魚)の香りに、一気に食欲が開花した(後日、別の種類の香港産の魚醤と判明)。脂身と赤身のバランスのよい叉焼(チャーシュー)、卵はふんわり。お米がぱらぱらほぐれていながら一粒一粒にふっくら味がしみ、枝豆の彩りと歯ごたえが楽しい。毛湯(鶏ガラのだし)をたっぷり使ったスープは、さっぱりしたトマトと卵。大根餅と、黒酢を添えた水餃子、ココナッツミルクとタピオカのデザートもついたお得なセット(800円)は、店の名物料理満載だ。しかし炒飯、お粥とともに広東料理の鉄板である麺はなぜないのか。

店主の武原孝治さん

店主の武原孝治さん

 「麺は、スープ、麺、具の用意と、何倍もの手間がかかるのです」と、店主の武原孝治さん。広東料理が評判の都内のホテル出身。休みになるとしばしば香港を訪れ、本場の味を習得した。

 結婚を機に独立したのは3年前。昼は給仕係がいるものの、人任せにできない性分のため基本的に孤軍奮闘。夜は給仕も担当するが、あっという間に料理が出てくるのは見事。叉焼、XO醤などの調味料も自家製だ。もちろん夜は湯麺、拌麺(まぜ麺)、焼きそばなども楽しめる。

 広東料理の魅力を、武原さんはさっぱり感と香りのよさという。中国各地の料理は「西辣、北鹹、東酸、南淡」。高温多湿な四川などの西部は辛いものが好まれ、冬には厳寒となる北京や東北地方は塩辛いもの、黒酢の産地である上海は酸味の強いもの、そして広州などの温暖な地方ではあっさりした料理が特徴だ。

 そのおいしさを堪能するなら、まずは炒め物。湯通ししてから素早く一気に火を通す季節の青菜炒めは絶品だ。塩味、醤油味などがあるが、塩気とコクを合わせ持つ腐乳(豆腐の麹漬け)がおすすめ。
  点心類もぜひ。拍子木切りにした大根がたっぷり入った大根餅、松の実入りの潮州風餃子、豚肉とえびの焼売、野菜のつなぎは入れず、豚肉とスープのうまさを味わう小籠包などなど。

 そうそう、香港式のお粥は「米粒を、花が開くように炊く」といわれ、米の形状をとどめぬようにとろとろに炊く。松の実、香菜、レタス+辣椒醤(ラーチュージャン)の3種のトッピングを加えれば味は何倍にもふくらむ。

 前菜のクラゲの山椒風味、いかの豆豉炒め、酢豚、豚スペアリブの柔らか黒酢煮込みなどの一品料理もうまい。夜は主菜に小鉢、ご飯、スープのついた定食(1,000円)も。

 秋はみんなが楽しみにするフカヒレの蒸しスープが登場する。ちなみに武原さんは鹿児島出身で、黒糖焼酎がそろう。中華にも合うというから、ぜひお試しを。

文京区弥生2-12-2 TEL:03-3815-0005
11時30分~14時30分ラストオーダー 18時~21時30分ラストオーダー 
日曜夜のみ、18時~20時30分ラストオーダー 不定休 
昼のお粥セット、炒飯セット各800円、定食2種900円、1,200円。夜の予算約3,000円。

中濱潤子プロフィール

歴史や風土と職人魂のつまったワインと食を追求するライター。女性誌、ワイン専門誌、カード雑誌などで執筆。
「地域雑誌 谷根千」では2001年から「おいしい店みつけた」を担当。
谷根千英語ガイド おみやげコンシェルジュを主催 http://omiyage.yanesen.org/