巻頭言アーカイブス

変わるもの、変わらないもの

2020年は東京オリンピックも含め様々な行事やイベントが中止になった。そもそもなくていいような大イベントに未練はないが、限られた地域でのことや、個人的なもので、それが希望や楽しみになっている催しができなくなったのは残念でならない。 私にとっては正月明けに三々五々、谷中のわが家に集まって、先に逝った人の思い出を肴に、友人たちと語りつくす時間。2021年はこの新年会ならぬ、愛しい故人たちを偲ぶ会の断念から始まる。

さて、秋以降の報告。わかることだけ。
池之端の銭湯、六龍鉱泉の突然の廃業は8月14日だった。でも、あきらめきれずに十日後に「谷根千号外」を作って届ける。
10月24日に六龍鉱泉の廃業やたてもののもしかしての取り壊しを心配する若者と一緒に、写真を撮らせてもらいに再訪。閉めた後も掃除が行き届き、洗い場に置かれた鉢植えに暖かな日差しが差し込んでいた。


いいねぇ、この空間残したいねぇ
(六龍鉱泉で川原君と中村君)

六龍鉱泉

六龍鉱泉

六龍鉱泉

谷根千号外 六龍鉱泉

9月になって谷中のフレスコ画家、松橋博さんの訃報が届いた。2009年夏、「谷根千」の終刊イベント「谷根千工房がやってきた!」を企画してくださった、大恩人である。松橋さん夫妻のギャラリーTENでは、無罪を訴え続けた帝銀事件の死刑囚、平沢定通のテンペラ画の企画も思い出に残る。谷根千終刊ののちも谷中ののこぎり屋根の保存した部材の展示もさせてもらった。 「谷根千工房がやってきた!」の様子は映像谷根千で観られます。お時間のある時にぜひ。
http://yanesen.eizoudocument.com/004yattekita.html

オオギピアノ教室の発表会は10月4日に島薗邸で。弟子4人、師匠1人、観客4人でマスクしながら。

今年は雑誌の休刊・廃刊も相次いだ。
平凡社の隔月刊誌『こころ』もその一つ。
https://www.heibonsha.co.jp/kokoro/
編集者で作家の仲俣暁生さんが、2020年10月発行の最終巻Vol.57と、その前のVol.56(2020年8月発行)の2回にわたって、谷根千工房のことを書いてくれている。連載「『編集』のゲニウス・ロキを探して――雑誌の聖地巡礼」、その3回目と4回目。千駄木は1911年に日本初の女性たちのメディア『青鞜』の創刊された場所でもある。いままでとは視点を異にする、雑誌の誕生した土地に根ざす谷根千工房論が面白い。ぜひ、読んでください。


屋敷森

11月には屋敷森(千駄木ふれあいの杜)の落ち葉掃き。寒さが早く来たために、葉の落ちるのが早いこと12月の半ばにはすっかり葉は落ちた。江戸時代の初期、徳川家光から太田家が下屋敷として配された大名屋敷の庭の一部が、近年、太田家より文京区に寄贈され、都市林として保全整備されている。この数年、屋敷森の土壌整備の効果が表れてきた。ここは武蔵野の斜面地の植生のよくわかる緑地として貴重な場所だ。いま、森は時間をかけて、ムクなどの落葉樹林からシイ・タブなどの常緑樹の森に移行している。 コロナ禍をまったく意に介すことのない場所である。

12月になって完成後の八ッ場ダムを見学に行った。大きくてびっくりした。「ダムのおかげで昨年の台風19号の被害から利根川が助かった」という声もあったけれど、本当のことはわからないんです、とタクシーの運転手さんは言う。 数年前にチャツボミゴケ公園に行って、強酸性の水流周辺に群生するチャツボミゴケの美しさに感動したけれど、今年は旧太子(おおし)駅にいってそのチャツボミゴケに覆われた石を運び出した場所を見た。旧長野原線という戦時中に鉄鉱石を搬出するために開業した貨物専用駅、その鉄鉱石の材料というのが、美しい苔に包まれた石なのね。こんなものまで運び出していたんだ。旧駅舎が再現され写真が飾ってあった。大迫力は鉄鉱石を貨車に積み込む上部に穴をあけたトンネルでした。大遺跡のような風景です。


旧太子駅

旧太子駅.上から見ると

そして、保存の声も潰えた千駄木藪下通りの石垣がほぼ消滅した。もうこれしか残っていないの。この道を愛した森鷗外や永井荷風や木下順二さんも嘆くだろうなぁ。


藪下の石垣 8月

藪下の石垣 12月

いま一番気になっているのは本郷の旅館「鳳明館」。ここは明治期の本郷の下宿、大正・昭和の旅館街の様子を彷彿とさせる唯一の建物。11月21日に鳳明館森川別館、12月22日に鳳明館本館に泊まった。ここの魅力をうまく伝えられたらいいのになぁ。


鳳明館森川別館

鳳明館本館玄関

家にいることの多かったモリは、今年いつにない著作の刊行ラッシュ。いままで書いたものをまとめる時間ができたそうだ。以下は今年8月以降のラインナップ、著者に成り代わりお買い上げをお願いいたします!

『路上のポルトレ 憶いだす人々』 羽鳥書店
https://www.hatorishoten.co.jp/items/35418111

『またいつか歩きたい町 私の町並み紀行』 新潮社 (とんぼの本)
https://www.shinchosha.co.jp/book/602296/

『病と障害と、傍らにあった本』 共著 里山社
http://satoyamasha.com/books/2586

『本とあるく旅 』 産業編集センター(わたしの旅ブックス)
https://www.shc.co.jp/book/13188

『谷根千のイロハ 』 亜紀書房 (これは2月発行だけれど地域を発信している本なのだ)
https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=941

2021年.先が見えないけれど、変わるものがあり、変わらないものもある。 変わらず、よろしくお願いいたします。

2020年12月28日  やまさき

谷根千工房 http://www.yanesen.net   E-mail: info@yanesen.com
〒113-0022 東京都文京区千駄木5-17-3 谷根千<記憶の蔵>内 
mobile 080-6670-0142(やまさき)
★常駐していません。