巻頭言アーカイブス

蛇がいる!

6月30日に池之端に移転した古書ほうろうの本棚に「蛇がいる」というツイートがあった。
https://twitter.com/legrandsnes/status/1145244292648062979
ほうろうさんファンから次々に反応があって、蛇は愛されているんだなぁ(?!)と感慨深い。

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蛇の話のまえに、まずはCMです。
実はわたし(Y)は昨年4月から大正大学出版会の発行する月刊誌『地域人』の編集部にわらじを脱いでいます。こんな雑誌。http://chiikijin.chikouken.jp/
先行してこの雑誌に「暮らすように町に泊まる」という連載をしていたМさんから編集部で経験者を募集しているよという情報を得てとらばーゆ、流行りの事業委託形式で、谷根千工房の活動も続けながら働いています。

働き始めて1年が経ち、せっかくなのでと昨年から温めていた「町並み」の特集を、Мさんをおだてそそのかし全編Мさんの取材と執筆で決行。50ページにわたる特集を7月10日発売の『地域人』47号でやっています。ぜひ読んでください。 そして、今回の取材にまつわるトークイベントを7月17日,18日の2夜にわたって千駄木の往来堂書店でできることになりました。題して「森まゆみの語る 生きている町並み」です。谷根千ねっとの情報トピックスでも告知しています。
http://www.yanesen.net/topics/detail.html?id=1553
往来堂書店さんはこちら。http://www.ohraido.com/ ぜひお出かけください。
では蛇の話に戻ります。

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池之端にはもちろん、谷根千地域にはたくさんの青大将(へび)が棲んでいる。
いまはなき弥生町の高田爬虫類研究所の高田榮一さんのファンであったから、『谷根千』の雑誌でも2度(2号と79号)取材し、そのほか蛇や蜥蜴の絵を描く吉野久幸さんと遊びに行ったことがある。そのたびに高田さんは愛しいアオ(青大将)の話をしてくれた。

「青大将をぼくは親しみを込めてアオと呼ぶ。日本にしかいない種類で〝大将〟なんて最高の名前でしょう」
「嫌われても嫌われても人に寄り添って生きているのに、見てくれが悪いだけでなぜ排除するのか、ひどいよ」
「人間も住みにくいこの過密な都市で、音もたてず、匂いもなく、エサもねだらず、厄介者のネズミを退治してくれる。アーバンライフスネークなんだ」
「ネズミだけいてヘビがいないのは縁の下も天井裏もないコンクリの町」
「ぼくが都知事ならマンション壊して、木造の家に草をぼうぼうはやすのを奨励する、アオのために」

往年の高田爬虫類研究所には捨てられたワニ、飼えなくなったカメやヘビ、逃げたか逃がしたかわからないオオトカゲなんかを保護していた。 そのほかに、アリクイやバク、ピューマ、ダチョウ、サルも飼っていた。

「ライオンを10カ月預かったこともある。不忍池まで散歩に行ったが、犬が吠えても、自動車の音にもびくともしない。そんなものは黙殺です」
「ライオンの目は永遠を見ているようで、さすが百獣の王。ぼくはすっかりしもべになった」
「動物は誰でも自己防衛のCritical distance(臨界距離)を持っている。それを保っている限りむやみに襲うことはない」
「ヒトもほんとはその距離があるはずなのに、満員電車や密集した住宅にいたりする。規則やルールを作っても不自然だよね。だから神経がおかしくなる」

そして最後に必ず
「爬虫類は必要な最小限の動きしかしないんだよ。不必要に動くのは人間だけ」

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根津神社の近くにある長屋を切った「短屋」を借りていたころ、わが家にも蛇はいた。
棲んでいることも知らずうちの蛇は私たちが住みはじめるずっと前からいたに違いない。

ある夏の日、当時中学生だった娘から「お母さん、うちってへびかってるの?」と電話があった。部活動から帰ったら茶の間の座布団の上に蛇がちょこんととぐろを巻いていたという。「いやいや飼っていないよ」と応えて仕事場から帰ってみると、確かに座布団の蛇は頭をすっと上げている。しかし、動く気配がない。
カラダの先を追っていくと、ハムスターのケージのなかにポッコリ膨れたお腹があり、先っぽがケージの外にでてまた座布団の上にある。 そうか、哀れわが家のハムスターのはむちゃんはあのお腹の中に呑み込まれていた。
その後の展開は古書ほうろうさんに似ているけれど、お巡りさんの対応が違った。
近所の方が根津の交番のおまわりさんを連れてきてくれたが、若いお巡りさんは 「毒蛇の場合もあるので本官は手を出せません。まず、蛇の紛失届を照会します」 見るからに青大将だし、このあたりで生息していて飼い主はいないと思うけれどねぇ。
そこで、お元気だった高田榮一さんにご足労願った。
布袋を持った高田さんは、ケージをペンチで切り、あっさりと捕獲。 「痛かったろう、かわいそうに」と蛇をやさしく撫でて布袋に。 娘の視線が気になって「あの~、蛇のお腹を切ってハムスターを助けたいんですが」 といった私をさげすむように見て帰っていきました。
お巡りさんはうちの前にいつの間にか来たパトカーの無線で告げる。
「ただいま蛇の捕獲完了いたしました。被害はヤマサキ家のハムスター一匹。以上、報告終わります」

2019年7月2日   谷根千工房(山﨑範子)

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