巻頭言アーカイブス

谷根千地域の保存と活用

町を歩いていると、保存された建物、リノベーションされた物件が相当増えつつあり、それに付随して観光客がうなぎ上りに増えてきています。
私たちが雑誌「谷根千」を創刊した35年前から、台東区側では、朝倉彫塑館の庭は国の名勝、建物は国登録文化財。
上野公園にある旧東京音楽学校奏楽堂は台東区が移築保存をし、今は国の重要文化財。
三崎坂にあった旧吉田屋酒店は上野桜木の言問通りに移築され、台東区生活文化財指定。
上野桜木会館は都から区に移管され、二階建てを平屋にリノベーション。
池之端のふるかわ庵は持ち主がそのまま利用した料亭。
質屋の蔵をギャラリーとして残したスペース小倉屋、観音寺築地塀、老舗花重などは国登録文化財です。
NPOとして活動するたいとう歴史都市研究会が保存管理するしているもの、市田邸、間間間(さんけんま)、平櫛田中邸。そして上野桜木の3軒の木造家屋を、クラフトビールの飲めるパブ、オリーブオイルと塩の店、ベーカリー、貸空間、事務所と住居によみがえらせた「あたり」。
銭湯を現代美術のギャラリーとしたスカイ・ザ・バスハウス。
建築家宮崎晃吉さんによる文化的リノベーション事業のHAGISO、hanare、TAYORI、KLASS。
そして昨年には古い町家を次代に手渡すことを目的とした「株式会社まちあかり舎」が誕生し、今年4月3日に最初の保存改修事例となった旧銅菊の建物が、大丸松坂屋百貨店の企画室「未来定番研究所」として活用を始めました。
そのほかにも、貸し原っぱ音地、旗本近藤邸の跡地は初音防災ひろばと初音の森として緑地も残り、寺町のヒマラヤ杉は伐採がまぬがれ、ライオンズガーデン三崎坂の景観に配慮した建築など、住民は様々の経験を積んできました。
そのなかでよみせ通りのノコギリ屋根工場跡を保存できなかったのはいかにも残念です。
またメディアの記事や、インターネットによって、世界中に「YANAKA」が発信されていき、時によっては谷中銀座やよみせ通りを歩く人の半分以上が外国人ということもあります。何か、町から住民が、商店街から地元の買い物客が疎外されているかのような気持ちにさえなります。

さて文京区側を見て見ましょう。
東京都指定名勝の旧安田楠雄邸庭園は100人を超えるボランティアの手によって週2回公開され、日本古来の5節句行事を執り行っています。
国登録有形文化財の島薗家住宅(矢部又吉設計のスパニッシュ建築)、日々活用される根津教会、大事なお客様を案内できる串揚げのはん亭。
そして、谷根千・記憶の蔵(築およそ100年の旧佐野邸)、文京区特別養護老人ホームの千駄木の郷(本郷十河邸のステンドグラスやマントルピース)などが保存活用されています。
文京区側はたてもの応援団(文京歴史的建物の活用を考える会)が専門的な実測調査や保存活用への助言を行っています。
また、文京区白山(丸山新町)の崖下の三宅邸は国登録文化財で、きちんと一族によって住み継がれています。
その崖上の旧篠田医院も新しい所有者に受け継がれました。これも建築家有志などが実測調査を行い見学会開催し、壊さずに使ってくださる方に譲りたい、という合意ができ、歴史的建造物に見識を持つ方が名乗りを上げてくださったものです。

さて、東大弥生門近くの佐野邸が現在不動産屋に出ています。もと東京大学工学部長であった佐野秀之助の屋敷で、東大ボート部の親友、山下寿郎が心を込めて設計した素晴らしい建物です。二階の日当たりはよく、一階には離れを含め4間あり、トイレも3ヶ所ついています。宿泊施設、飲食施設としても大変使い勝手の良い建物です。
継承者は郊外で独立されているので手放すことになりましたが、できればこのまま引き継いでもらえれば嬉しいとのことです。ご興味がある方はどうぞ、こちらにご連絡ください。

2018年4月5日   森まゆみ

谷根千工房 http://www.yanesen.net   E-mail: info@yanesen.com
〒113-0022 東京都文京区千駄木5-17-3 谷根千<記憶の蔵>内 
mobile 080-6670-0142(やまさき)
★常駐していません。