巻頭言アーカイブス

「半分は江戸のものなり不尽(ふじ)の山」

富士山が世界文化遺産に登録される公算が強まったという報道のなかで、東京新聞が引用した俳句です。
たしかに、世界遺産登録をつかさどるユネスコの諮問機関であるイコモスは、日暮里富士見坂からの眺望を保全決議し、昨2012年5月に保全要請の勧告書を関係機関に送りました。すでに坂のある荒川区や「富士山の通り道」である文京区、台東区、豊島区、新宿区から、勧告書の返事がイコモスに届いているそうです。区によって返事に温度差はあるようですが、共通するのは「荒川区が主導する眺望のガイドラインづくりには協力する」という意思表示だそうです。しかし、なぜか肝心の東京都からの返事はまだないと聞きました。猪瀬直樹知事、できるだけ早いお返事をお願いします!

日暮里富士見坂からの眺望軸(ガイドライン)づくりの一歩が踏み出せそうなその日、建設中の不忍通りのマンションが、日暮里富士見坂から見えるところまで建ちあがってきました。本当にこのまま建ってしまうのだろうか。どこにでもあるビルのために、わたしたちはこの風景を失ってしまうのだろうか。
文京区根津2丁目、旧藍染川ぞいの丁子屋さんの新築工事も進んでいます。新たな丁子屋さんも木造のすばらしい建物になりそうです。しかし、昨年秋から約4か月間、持ち主の方とともに取り組んだ、保存活用の道はかないませんでした。明治43年築の、藍染川流域の産業や歴史を伝える貴重な建物は、二度と戻りません。持ち主が願い、町が必要としているものを残せないなんて。
丁子屋さんの一件は、都心部の歴史的建物の所有者が置かれている状況を象徴的に表しています。あぁ、涙があふれそうだ。次回巻頭は楽しい話を。

(山﨑範子)