巻頭言アーカイブス

2012年10月

長く暑い夏が終わりました。さわやかな風の吹き抜ける秋も、でもあっという間に終わってしまうのでしょう。秋を惜しみ、紅葉を見に行きたいです。

9月末からいったドイツはもうすっかり樹々が黄色く色づいていました。そしてプファリンゲンというアンズダケのスープなど楽しんだのですが、故国のキノコは今年もどうかな、とおもうと悲しくなりました。シュバルツバルト、黒い森のレストランのシェフは26年前、チェルノブイリの事故によって森のキノコが食べられなくなり、原発に反対する活動を始めたそうです。バイエルンなどではいまもイノシシやキノコが基準値を超えて食べられないことがあると言っていました。

東京駅が当初の姿に復元されました。目の前の新丸ビル5階に根津のはん亭が串揚げのお店を出されています。ご主人の高須さんはつつましくライトアップされた東京駅を目の前に「この日を待っていました」とおめでとうの会に招いてくださいました。ああ、残って、きれいになってよかったね。でも、東京駅だけのこって、丸ビルも、東京中央郵便局も、八重洲ビルもみんななくなってしまった気がします。空中権移転ってなんだろう、ビール片手に茫然としました。

滑川五郎さん、成田一徹さん、若松孝二さん、ーーこの世で他生の縁ながら袖の触れたかたがたの訃報を目にし、会えたことに感謝し、謹んでご冥福をお祈りします。前号、飯沼飛行士は戦死ではない、とのお便りをいただきました。飯沼さんはマレーの飛行場で整備中に事故死しています。それは知っていましたが、これも戦争に行ったせいで、膨大な戦病死も戦死にふくまれるのと同様、戦死と書きました。

延命はしたくない、という話のついでに「でも希望は2030年の原発廃止を見る事よ」というと息子に「第三次世界大戦を見なくてすむといいけどね」と混ぜっ返されました。子の世代の深い絶望を見るようでした。

(森まゆみ)