巻頭言アーカイブス

震災から一年経とうとしています。

被災した根津の山の湯は更地となり、住宅地として分譲されました。銭湯、あるいは銭湯に変わるコミュニティの場になればと願いましたが、力足りずに届きませんでした。
震災前に設計された谷中コミュニティセンターの防災・コミュニティセンターとしての建て替えは、多くの住民の参加をえて、よりよい建て替えになるための話し合いがすすんでいます。
震災後も160メートルという超高層を新宿区大久保で計画している住友不動産のビルは、日暮里富士見坂からの眺望を阻害します。この計画について、ユネスコの世界遺産の諮問機関であるイコモスが、歴史的眺望の保全を決議し、企業や関連自治体に計画見直しのアピールを行っています。

原発についてはたくさんの団体が活動しています。みな自分に関わることだからです。今動いているのは北海道・泊原発3号炉と新潟・柏崎刈羽原発6号炉の二基だけです。刈羽は3月26日、泊は4月下旬、それぞれ定期検査で停止します。
大飯原発の再稼働を認めないようにしましょう。クエートは福島をみて原発開発を中止しました。原発を押し進めた人々には罪の自覚を強くもとめるとともに、それを許したわれわれもこどもたちの世代に責任があります。私たちはみな、フクシマ人です。それぞれが十分、リスクを知って、冷静に自分の生きる場所を、食べるものを選択しましょう。
原発の雲の彼方、沿岸部の被災地の人々はすでに忘れられそうになっています。ほとんどの東京人にとっていまの自分の生活に関わらないことだからです。
支援物資や炊き出し、瓦礫処理の段階はほぼ終わりに見えます。
これから何が必要でしょうか?
被災して家をなくした方達は仮設住宅、借り上げ住宅に2年無料で住めるそうです。そのほか家を直して住んだり、さっさと自費で家やアパートを借りた方もいます。前者には赤十字から冷蔵庫や洗濯機、布団などが配られましたが、後者にはなんの援助もありません。
行政はその土地の条件に応じて、高台移転や公営住宅建設を計画しています。海際の津波がきた土地には建築制限をかけるという自治体もあります。私有財産制のこの国でどこに家を建てて住めなんて、よけいなお世話じゃないか?
町づくりには住民が参加し、その意志が尊重されなければいけません。しかし仮設にばらばらにはいっている人、身よりを頼って、仕事の関係で遠くに住んでいる人の意志をどうやって汲めるのでしょうか。
「元の地に家を建てたい。もし今回のような地震がきたら逃げればいい」という人もいます。「このまま根津の長屋で死にたい。地震が来て死んだとしても本望」といったおじいさんを思い出します。
高台に移転地を造成するといっても行政のやることは時間がかかり、できたころには住民はもう別の市中に定着しているでしょう。八ッ場ダムでもそうでした。代替地に200軒を予想しましたが、20軒しか移り住みませんでした。
いま必要な支援はコミュニティを壊さず再建するための支援です。
たとえば遠くにいる住民に地域紙を、地域雑誌を届けてつなぐこと。
伝統芸能、まつり、その他のイベントを応援すること。
地域の核となり、原風景でもある歴史的建造物を壊さずに修復すること。

なんかやれそうじゃありませんか? 谷根千の得意分野です。

日本ナショナルトラストでは文化財救援の募金をしています。きっぷのいい方、日本赤十字に寄付するのには飽きた方はよろしくお願いします。
http://www.national-trust.or.jp/shinsaishien.html
東北のことを忘れずにいよう! 

(森まゆみ)