巻頭言アーカイブス

新しい生き方のために

新しい年が始まりました。どんな年になるかは私たちにかかっています。
前に述べたように、私たちはフクシマ人になりました。だれも自分だけ逃げられるわけではありません。

岩手のほとんど検出されない瓦礫を東京で引受けることは賛成。福島第一でできた核のゴミは福島第一に置いておくしかないと思います。中間貯蔵はキレイゴトです。使用済み核燃料は東電に製造物責任があり、現地で引受けなければなりません。地域振興の甘い夢にのせられてとか、金が欲しいということで原発に賛成するとこういう結果をもたらすことをまなびましょう。
10基しか動いてなくても電力は足りています。今年の夏もピークカットに協力すれば大丈夫。電気に頼らない暮らしを自覚的に追求しましょう。できるだけ外を自転車か歩いて行きましょう。車や電気製品にエコポイントをつけるのでなく、蓄音機や湯たんぽ、腹巻やレッグウォーマー、夏ならよしずやうちわなど電気を使わないものにエコポイントをつけよう。
福島の一部にはもう戻れないかもしれない。そこにいる子どもたちの健康をどう守るか、避難したい人が避難できる条件をどうつくるか、避難者が新しい土地で生業を持つことをどう支援するか。差別をどう生まないか。それにかかわる困難を東京の私たちがどう引受けられるか。少なくとも一緒に悩み、できるだけのことをする覚悟はあることを福島のみなさんに伝えたい。

なにより原発はコストの安い環境にやさしい発電機ではなく、核燃料サイクルによる核兵器製造所だということがはっきりしました。新規は当然、再稼働を許さないよう、全国の議会に働きかけよう。「経済発展」の視点からでなく「いのち」の視点から。ここが正念場です。
民主党の「コンクリートから人へ」というマニフェストの象徴であった八ツ場ダムは、官僚の巻き返しに合い、原発騒ぎの隙間をぬって再開されます。これまた「東京都民のため」なので看過すれば私たちに責任がある。
谷根千がたまたま原発、基地、ダム、空港などの立地に狙われなかっただけで、それに安住していてはいけないし、いつ狙われないとも限りません。じっさい千駄木3丁目にはNTTの巨大サーバビルが建設中ですが、その電磁波低周波の健康への影響はまだわかっていません。
国家公務員宿舎やボーナスアップ廃止、国会議員の特権の廃止と歳費削減などをしないかぎり、増税に応ずる気はない。国会議員は百人でいいなどという暴論がありますが、それだけ権力が集中します。今のままの定数で中選挙区に戻し歳費を半分にした方がいい。公務員の手厚い退職金や遺族年金にも大なたを。いっぽう公務労働をいまのような「前例のないことはしない」「大過なく過ごせばいい」「文書とはんこ行政」からもっとやりがいのある自由な、楽しいものに変えてあげたい。
3・11以降、物資輸送、炊き出し、募金、東北産物の物販、イベント、広報の手伝いなどやってきましたが、まだまだ工夫の余地はあります。政治家の質が低く、国もあてにできないなら、批判ばかりでなく、この社会を自力で変えることにエネルギーを使いましょう。
谷根千は2012年も活字で映像で、記憶を記録に替えていきます。
「権力に対する人間の闘いは忘却にたいする記憶の闘いである」ミラン・クンデラ

(森まゆみ)