巻頭言アーカイブス

2012年が暮れようとしています。

今年もいろいろなことがありました。
谷根千の町では文京区立森鷗外記念館が11月1日に開館しました。
ちょうど同じころ、明治28年築の根津の染物店、丁字屋さんが解体するという案内が出ました。誰よりも建物を愛していたご主人の意向をうかがい、現在、区指定の文化財として保存してゆく道を探っています。
日暮里富士見坂からの富士山の風景は、不忍通り沿い千駄木3丁目に建設中の賃貸マンションによって失われようとしています。しかし、この歴史的眺望をこのまま失くしてしまっていいのだろうか、建築主にお会いしてこの風景の価値と影響の大きさをお話ししたい、その願いはかなえられていません。
東京電力福島第一原発の状況はいまだにはっきり分かっていません。せっかく5月5日,こどもの日には日本のすべての原発が止まったのに、政府は夏,大飯原発を再稼働させました。関西圏では電力はあまっており、再稼働の必要はありませんでした。福島の現実,被曝労働者の現実、そして核廃棄物の処理もめどがつかないことを考えれば、原発は一刻も早く廃止したいものです。
昨年3月に立ち上げたウェブサイト谷根千震災字報の更新が160回を超えました。
被災地では今年も仮設住宅で冬を迎えます。
去年は仮設に外断熱の綿入れを着せていましたが、今年は風呂の追い炊き設備を追加したようです。これも建設のプレハブメーカーは最初からつけた方がいいと進言したらしいのですが、災害時のために用意してあった仮設にその設備はなかったので「公平に全部につけないことにした」そうです。
90歳の写真家福島菊次郎さんではないけれど「この国と一緒に腐りたくはない」と思います。
谷根千工房のスタッフは雑誌終刊後もそれぞれの場所で地域活動を続けています。お互いへの信頼の確かさを、会うことの少なくなった今、改めて強く感じます。同じ方向を見ている仲間がいることは、幸せで心強いものです。
わかりやすさを警戒し、自分の頭で考え、自分の目で確かめる。肝に銘じて新しい年を迎えます。

(仰木ひろみ・森まゆみ・山﨑範子)