No.945
2005年2月3日(木)
中番で出勤。うまく仕事の流れに乗れず、思ったようには品出しできませんでした。
というわけで、いきなりですが一昨日の続き、競馬特集の補足説明に行きたいと思います。
油来亀造(「ゆきかめぞう」と読みます)について僕が知っていることはほとんどありません。今回出した『春が来た!』(亀造競馬劇場 2 奮闘篇)、及びそれに先行するデビュー作『グランプリで会おう』(亀造競馬劇場 1 哀愁篇)という2冊の本が手元にあるだけです(ともにコスモヒルズ刊)。かれこれ10年近く新しい本は出ていません。にもかかわらず、この人の印象は強烈です。
競馬小説というと、色男の主人公が馬券で大もうけ女うっとりウハウハ、なんていうのか(これについては様々なバリエーションあり)、そうでなければ、実際に競馬に携わる人たちを主人公にしたもの、競馬界を舞台にした謎解き、などといったものが多いのですが(それらが悪いというわけではありません)、この人の書くものはそういうものではありません。もっと身近でリアルなものです。毎週末競馬新聞とにらめっこしながらああだこうだと思いを巡らしているような人たちに、そうそうそうだよ、うんうんわかるよと呟かせてしまう、そんな作品を書く人です。
たとえばこの『春が来た!』に収められているものについていえば、「始まりの時」という作品があります。引退して今は調教師をしている名ジョッキー柴田政人への思いをひとりの脱サラ男が吐露するという形式のお話なのですが、ひとりの人間が競馬と出会って長い年月を過ごすということの喜び楽しみが、これほど真に迫って書かれたものはそうそうないでしょう。ポイントとなるレースの結果表、思い出の馬の生涯戦績表、柴田政人の重賞勝ち鞍一覧なども適宜付けられ、至れり尽くせり。個人的には『日刊競馬』の柏木集保への好意もうれしいものでした。
また「1700倍の日」という短篇もあります。武豊騎乗のベガ号がオークスを勝った日の最終レースが舞台。主人公の男が(実際に出た)1700倍の馬券を取る過程を描いたものなのですが、そんな大穴馬券の話など、普通は「けっ!」てなものです。共感なんて湧きようがありません。でも、これは違います。馬柱にオッズ表まで添付されたこの小説のなかの、主人公の思考の流れはとても自然です。様々な要因がうまく揃えば自分もそういう予想をしたかもしれない、と思わせる力があるのです。
後ひとつ言えば、凄まじい反山口瞳本でもあります。ひとりのフリーライターが競馬本の書評を書くという設定の表題作や「鼎談『冠馬名を考える』」のなかでの、ヒトミ先生への容赦のない罵倒には驚かされます。ぼくが山口瞳の競馬本になかなか手を出さなかった原因は、間違いなく(先に読んだ)これにあります。
以上、まあそんな本です。未読の競馬ファンの人に強くおすすめします。あと蛇足ですが、この本はいつだったかの「本の雑誌」年間ベスト10に入っていたと記憶しています(よって本好きの人は題名ぐらいはご存知かもしれません)。その関係でしょうが、この文庫本の解説は北上次郎が書いています。
今日のところはここまで(またしても出勤時間が迫ってきました)。あと1回で終わりそうですが、この週末は大口の出張買い取りがあったりで忙しくなりそうなので、次回はたぶん週明けですね。
(宮地)
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