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日々録   2001年6月
No.76  2001年6月4日(月)

昨日、噂の水族館劇場『パラダイス・ロスト』を観て来た。
噂どおりのものすごい舞台だった。
圧倒され、揺さぶられ、しばらく放心していた。
(いまここで感想を書こうとして、またその「放心」が甦り指が先へ動かなくなってしまっている、あのラスト・シーン、“感動した”なんて生温い感想など書けやしない。)

あえてずれてみよう。
船橋ヘルスセンターに“8時だよ全員集合”を友だちと兄ちゃんたちと観に行って、親からこっぴどく叱られたことはないかい。
隊長をわざとゴリラとまちがえたり土人が襲って来たり「ちょっとだけよ」のタブーだったり。
今にして思えば親がなぜ目くじら立てていたのかもわかる。
それはおそらくクラスの女の子をゴリラとはやして傷つけたり少数民族を未開人として差別したり身体を売りものにしている女性を見下したりする人間に育ってほしくない、からではない。
ただ下品だからだ。

でもこどもらにとっては夢であった。
舞台を流れ落ちる水や二階の窓から顔を出す役者、豚や山羊やにわとりうさぎ、そして突然あらわれる銀河鉄道の客車なんてものはそれだけであの禁断の船橋ヘルスセンターの夢の舞台なのだ(あっというまに舞台が回ってキャンディーズが出て来てはトイレに行く暇なんてありゃしなかったものだ)。
それはもう清潔な夢とロマンに満ち溢れたディズニーランドやユニバーサル・スタジオなんか屁のような、笑いとスリルと興奮の、ものすごいショウであったのだ(ディズニーランドには黒人が出て来ない、この事実のほうがよっぽど排他的である、と個人的に思っている)。

『土佐源氏』の馬喰(ばくろうと読む)風貌の片輪の浮浪者が磨いてどうなる片足ぼろ靴をぼろ纏った婆さん靴磨きに磨いてもらっていい気持ち(このときほんとは映画『黄昏に燃えて』のメリル・ストリープよろしく婆さん磨いてたのはちがうところだったんじゃないかとみる観客多いか少ないか)うとうとと、夢に見たのはあのパラダイスと呼ばれた闇市横町、懐かしい人々。
パンパン姐御に足げにされるマッコリ売りやぽん引きに気狂い教授、片義手のアコーディオン弾き引き揚げ兵士、堕天使のガキ、酔っぱらった自己中ナルシスト、娘の米まで食らってひとり生きのびた闇市の女丈夫ボス、憎しみの塊の怪物、嫉妬の源であった純粋という名のオナペット、(ヒロポン中毒、黒人MP、狡猾なニッポン人官僚、)そしてペテン女に夢見た男、知恵おくれの聖者。
こんな毒だらけの人物たちが、愛を嫉妬に、親切を徒労に、無垢を犬死にに、欲望を憎しみに、あまつさえ、生きのびる力を醜さに、変えてしまわざるをえないこの不確かなる生というものを、愛と汚辱のうちにまみれながら紡ぎ出した物語は、抗争の終焉とともに、妄想から出た真実(まこと)もまた地下深くへともぐっていかざるをえなかったのだろう。
ふたたび焼跡で、人々はそれぞれ何処へ向かって旅立って行ったのだろう。
さらなる闘争へ? それとも忘却の彼方への逃走か?
片輪の浮浪者は、夢から醒める。
いや、夢の続きに夢から醒めて対峙する。
雷(いかづち)が轟き激しい雨が降りしきる。
(おそらく旧約聖書で降りしきったあの雨だ、すべてを洗い流したあの雨だ。)
やがて雨が上がると滴り続ける水の中から浮かび上がる亡者たち、はたして彼女や彼たちは、確かなものを受け入れた神々か、それともいまだに彷徨いつづける巡礼者なのか。
いずれにしても、霧の中に浮かび上がるノアの箱舟が如き銀河鉄道の最終列車、そいつに乗り込む準備は出来ている面々だ。

と、かんたんに、あらすじだけ。

あぁ、でももっと早い日に観とくんだったよ、今日で千秋楽(クニヨシが行ってるはずだ)。
芝居後マッコリ売りのしたたかな在日(のちきとオモニ)を演じた役者さんから振る舞い酒をついでもらいつつ聞くところによると、舞台セットだけとってみても日々進化しているのだそうだ、そいつを実感しながら観てみたかった。
それにもっとたくさんの人に宣伝しておくんだったもっとたくさんの人に観といてほしかった(でも観てないものを宣伝はできやしなかった)、でももうあとの祭りやね、もはや今日で千秋楽(今日はクニヨシが行ってるはずだ)、あぁ〜あ店までの通勤路、ちょいと遠回りしながら日々出来上がってゆく芝居小屋にワクワクしてゆく宮地やアオキ、わっしはなんにも見ちゃいなかったのさね、わっしの近くにこんな連中がいつのまにやら近づいていたの、をね。
であるからして来年も、絶対来ておくれ、鬼に笑われようとも願っているさ。
芝居小屋やら見せ物興業、紙芝居に赤っ鼻の酔っぱらい赤くずれ弁士、仙人髭の飴売り、火を吹くミスター・ヘンリー、ミンストレル・ショウの白手袋ブラック・フェイス・ミラクルズ(日本語ではシャネルズといえばわかりやすいか)、愛すべき娼婦たちの香水の匂い、子豚のパンドラ、混沌として、わっしの町にもサーカスがやって来たぞ!
てなノリだけの山崎であるのだろうが、ね。

うりゃあ、毒を喰らわば皿までの日々録、いままた朝に気付いてこれにて終了。
つぎはぜひ、あんたといきたや、はなしたや。

(山)

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