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くまのかたこと

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12月1日〜12月7日

12月1日(月曜日)
はや師走。
新幹線にのったとき、指定席にどやどやと乗り込んで来たおばちゃんたち、「あ、ここいい。すわろう」「大宮で人来るかな」「来てからたてばいいよ。ア、車掌さん。ここ人来ますか」「サア来てみないとわかりません」「それまで座っていいですか」「いいですが来たら他の席に移って下さい」「こないといいわねえ」大宮でそこに指定席権をもった老夫婦が乗って来た。おばさんたち、がっかりして立ち上がるが、人の体温のする生温い席に座らされた老夫婦かわいそう。ひとつ前の空いた席に移り、「あっちの席の方がよかった。ここはせまいわ」どこまでずうずうしんだろうか。あきれた。
夜、お風呂に入りたくなり、タクシーで巣鴨の「さくら」にいく。ちょっと塩素のにおいはするが、夜九時に思い立って天然温泉に入れる幸せ。サトコと岩盤浴。閉所恐怖症のため、不向き。


12月2日(火曜日)
朝10時、病院のメンタルクリニック。精神安定剤を飲んでいる。先生に会うとやさしくてなんでもはなしを聞いてくれるので涙もろくなる。
目が痛くて少し仕事をすると疲れて頭痛もするし耳鳴りもします。いままで働き過ぎなのだから、エイトマンの胸のブザーだと思って、なったら休んだら。
ブザーがならないともっと大きな病気が来ますよ。かえり、ワンタンメンを食べる。店に入るとなんだか落ち着く。「わし、もう2ヶ月来なくていいんだ」「あーら、さみしいから1週間に一回くらい来なくちゃだめよ」
よかったね、治って。といわないところが東京人の含羞。
 

12月3日(水曜日)
土鍋にこって毎日たらちり、あさりもやしなべ、豚バラとほうれん草なべ、きのこなべ。美術雑誌の編集者来る。連載を始めようか迷ったけど、草間弥生の物まねをしてくれたので引き受けることに。そのあと江戸東京フォーラムの委員会。みんな大学の先生はいそがしい。神楽坂の古い民家改造の居酒屋に行く。
おしゃれという言葉嫌い。ちょっと気取って商業主義。


12月4日(木曜日)
赤坂にて雑誌のインタビュー。店のBGMうるさくてはなしに集中できず。そのあとラジオ番組、長いことはなすが、出演料は出ないらしい。


12月5日(金曜日)
1時より住まいの町並みコンクールの審査。もらう所はどこにでも応募して助成金などもらっている感じ。いっぽうで福祉の手が伸びない所も多いのに。夕方、オークラで菊池寛賞。アンノ先生のお祝いに駆けつけるもパーティーは苦手でそうそうに逃げ出す。ポン太と酔心で牡蠣で一杯。


12月6日(土曜日)
真理ちゃん丸森より来る。谷根千を案内するつもりが、根岸、三ノ輪とどんどんはずれる。ランチはトルコ料理ザクロ。濃い店がますます濃くて、主人「ほら、そこのあやしい男、食べたら早く出て行け」「今来たイラク人、みんなフセインの友だち」とか勝手なことをいうがお客喜ぶ。
奥本さんが送ってくれた「パリの詐欺師たち」を読む。すごく面白いが登場人物が有名な女性評論家の年下の夫と酷似しているのでびっくり。結局別れてしまったとか。でもこんな男なら無理はないなあ。奥本さんはだじゃれの天才で、課長の名刺をもらうと「ア、花鳥風月ですか」部長だと「ア、不調法ですか」なんていうのでその度に笑い転げていたものだ。
が、なんといってもわすれられないのは、火山灰の荒涼たる原を歩いていたとき。奥本さんはほっそりしていて私のように皮下脂肪に恵まれず、唇が青ざめてきた。ショールをまいてあげたら悔しそうに「もの言えば、プチブル寒し」といってぶるぶるふるえていた。


12月7日(日曜日)
七尾へ飛ぶ。テキストの直しと確認、デザイン、台割など。ふたば印刷の松山さん、たいそう冷静で仕事のできそうな人なので安心。
安野光雅「語前語後」を読む。二階建ての新幹線の下からはホームに歩く人のスカートの中がーー。では「のぞみ」でなき「のぞき」としたらいいだろう。
私もよくやまびこの一階に乗るが、むしろホームの下で働いている人をみるのが好き。かくも男と女の考えることは違うのか。

森まゆみ

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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