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くまのかたこと - 旅の宿編

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奈良ホテル

県庁の保存に関するシンポジウムに招かれたら、気を利かして奈良ホテルに泊めてくれた。。あいにく旧館は改装中で,新館だったが設備がよく気持ちよい。
窓からは美しい緑。本館は伊東忠太の設計、箱根富士屋ホテルほどキッチュでなく木を活かしたおっとりしたたたづまい。特に好きなのは,広い階段を上がった二階の小さなロビー,光の加減といい,いつまでも座っていたくなる。何もしなくても充実したときが流れる。

何年かして、また雑誌太陽の取材で泊めていただいたが,その居心地のよさ,着かず離れずの応対のよさはかわらなかった。わたしは奈良ホテルの焼き板をつけた自転車で町を走った。ダイニングの朝がゆもいいけれど,隣接するなら町は美味しい店が多い。しかしあれが太陽最後の取材、あのすばらしい月刊雑誌はもうなくなってしまった。そうと知れば奈良ホテルなんてぜいたくはいわなかったのに。太陽、アミューズ、朝日グラフ、朝日ジャーナル、旅,いろんな雑誌の最後を見届けたなあ。

あれから一回、わたしは奈良ホテルに泊まった。ツインのシングルユースで2万3千円、フロントの応対もよくない。
この前は両陛下がお泊まりになりましたがね,オフシーズンにダンピングしてからは客層がかわりましたよ。奈良のナショナルフラッグだから意地張ってもらいたいものですが,とタクシーの運転手さんが行った。たしかに魔法が解けてから,わたしはワシントンホテルのがいい。十分清潔だし,ベッドはダブルだし。
そのむかし堀辰雄が長逗留したホテル、浜田清涼がふらっとやって来る,そんな魔法はもう溶けてしまった。

森まゆみ
2007年4月16日(月曜日)公開

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