鉛温泉藤三旅館(1999)
正直言ってこの宿についたときはがっかりした。建物は古いがそう手入れがよくない。バスガイドに似た制服を着た仲居さんも無愛想で、荷物も持ってくれないし、これが東北人の素朴さだろうか。
しかしながら、風呂はよかった。二方向から階段を降りていった下に脱衣所と湯舟がある。天井までは10メートルほどある。混浴で湯舟は深く立ったままつかる。そこに流れる湯の音。三陸から湯治に来た漁師の浜ことば。
上がって自炊棟や売店に行くと、これがまたじいんとくる。売店では大福から洗剤まで売っている。小さな部屋の引き戸には手拭いがゆれ、コタツの中でじいさん、ばあさんがおしゃべり。ああ、こんなところで晩年を迎えたい。
森まゆみ
2004年2月20日(金曜日)公開
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